ようちゃんとさあちゃん。

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ようじさんを好きになってから二ヶ月。 進展は全くないままながらも、以前よりは話すことに慣れてきた。 バイトが終わって着替えて裏口を出たら、仲のいい人達で集まってわいわい話してるところに出くわした。 ようじさんもいる。 お疲れ様でした、と通り過ぎようとした私の手首がまた大きな手に掴まれた。 「さあ、さあも行く?」 「え、どこにですか」 「みんなで飯と飲みに行くの。さあ、家どっちの方?」 「あ、の、清水の方です」 「あ、じゃあ帰り送ってくわ。行こ」 行くと言っていないのに、みんなに囲まれるように歩き出してしまう。 あちこちから声がかけられる。 お酒飲めるの? ご飯、何が好き? 一人暮らし? 免許持ってないの? 次々にされる質問に答えているうちに、駅近くの居酒屋の奥座敷に押し込まれた。 「俺、さあの横!飲まされねーように監視するから飲ませんなよ!」 ようじさんがそう言って私より先に腰を降ろした。 やがてやってきたたくさんの料理をあちこちから伸びた手があっという間に攫っていく。 ウーロン茶のグラスを手に呆然としていた私の前に色々と取り分けられた料理が乗ったお皿が二つことんと置かれる。 「さあ、ぼーっとしてたら食いっぱぐれるぞ」 「は、はい。ありがとうございます」 「嫌いな物、ない?」 「あ、ねぎがちょっと…」 「へぇ。あとは?」 「あとは……シナモンが…」 「あ、俺も」 少し顰めた左頬だけにできるえくぼ。 そこに、いつか、触れられたら、きっと幸せすぎて空を飛べてしまうだろう。 「ようじさんは……何が好きですか?」 わいわいと賑やかな席で、聞こえにくかったのかようじさんが肩をぶつけて耳を寄せた。 「俺?俺は何か甘いの」 「甘いの?」 「チョコレートとかパフェとかホットケーキとか、とにかく甘いのが好き」 「ふふっ」 「さあが笑った!!」 賑やかだった座敷が一気にしんと静まり返った。 みんながようじさんと私を見ている。 「さあが笑った!ふふって!めちゃくちゃ可愛い!」 興奮したように息も荒く言ったようじさん。 そのすぐ後どっと笑いが起こった。 何故かみんながグラスを持ち上げてあちこちで乾杯が始まり、ぽかんとする私のところに双葉さんがやってきた。 大学の三回生の双葉さんは大人っぽくて、バイトでもかなりの先輩。 ちゃんと話すのは今日が初めてだ。 「ようちゃんね、さあちゃんのこと気にしてたんだよ。みんなに打ち解けられてないって」 「そう、なんですか」 「一生懸命メモとって、一生懸命仕事覚えようとしてて、みんな良い子だねーって話してたんだよー」 「そ、そんなっ」 少し酔っ払っているのか、双葉さんが笑いながら私の頭を撫でる。 「頑張ってる子は応援したいし、助けたいじゃない。困ったことがあったら誰でもいいから声かけるんだよ」 「……はい」 お母さん……世界は優しい。 少なくとも、私の回りは、小さな小さな世界はとても優しいよ…
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