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遠くでにゃーんと甘える声が聞こえた気がして重い瞼をかたっぽ開けると、ぼんやりした視界にれんさんが映った。
ベッドボードに凭れ、あぐらをかいた膝の中にサーシャを抱いて撫でてる。
「なぁ、もう一人ここに住んでもいいか?」
「そう、菜乃花」
「サーシャも菜乃花のこと好きだろ?」
「プロポーズはなぁ…おっさんだぞ?」
「指輪はなぁ…」
「一年しか経ってねーのにせっかちじゃねーか?」
独り言のように話すれんさんに、律儀ににゃんと答えるサーシャ。
ようやく晴れてきた視界を流れる涙がまた曇らせる。
れんさんの膝の中で起き上がったサーシャが伸びをしてからやってきて私の顔に身体を擦りつけた。
「聞いてたのかよ」
「………聞こえてきたんです」
ふっと笑ったれんさんの手が伸びてきて、乱れた髪を直してくれる。
ついでのように鼻筋を流れる涙を親指が乱暴に拭う。
「菜乃花、引っ越してこい」
「…………プロポーズ、ですか」
「そうだ」
「色っぽく、ない」
駄目だ。
どんなに拭われても溢れてくる。
「生涯餌をやるっつってんだよ」
「…………はぃ」
全然色っぽくない。
ムードもない。
事後に寝落ちて、汗と涙でメイクもボロボロ。
おまけに涙で濡れたところにサーシャの毛もくっついた。
でも、どこまでもれんさんらしくてかっこよくてかっこ悪い。
そこが好き。
そこも好き。
どこもかしこも全部好き。
「れんさん、大好き」
「知ってる。一生言えよ」
「……はい」
にゃんと短く鳴いたサーシャがとととっと1階に降りていく。
「空気読める賢いヤツだろ?」
「空気読んだんですか?」
「初夜だろ?」
ニヤリと笑ったれんさんが覆い被さって抱き締めてくる。
「え、さっきしたのに…」
「俺はな、まだ枯れてねーんだよ」
「え、私無理です」
「それは身体に聞くわ」
嬉しそうな声は首筋に埋められた。
大きな背中に腕を回して許すと告げるとガブリと噛みつかれた。
「この跡が永遠に残ればいいのに…」
「歯型よりこっちにしとけ」
おでこにこつんとぶつけられたのは小さな四角い箱。
見たいのに意地悪なこの人はそれを許してくれない。
とりあえず、今はこの人に夢中になろう。
それからのことはまた後で─────────
滝田廉探偵事務所、明日は臨時休業になりそうです。
またのお越しをお待ちしております。
✱長らくこの二人のストーリーにお付き合い下さりありがとうございました。
途中随分お待たせしてしまいましたが、なんとか書けましたので、楽しんでいただけると嬉しいです♡
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