とびきりのさようならを。

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とびきりのさようならを。

どこからすれ違ったのか。 わかったのは、あなたのつらそうな顔が別れが冗談じゃなく本当のことだってことと、 もう私に気持ちがないんだってことだけ。 一年付き合った記念に互いに贈り合ってから一度も外さず身につけていたネックレス。 その煌めきがあなたの首元にはもうない。 キスを強請る時に何度もネックレスを引っ張ってデコピンをくらった。 いつも先にずかずか行ってしまう彼にレディーファーストを強請り続けた。 照れ臭そうな顔をしながらぎこちない動きでレディーファーストしてくれる彼が大好きだった。 私はまだ現在進行系で好きなのに、 彼はもう完結してしまっているなんて。 そしてそれに気付かないままでいたなんて。 「ネックレス…」 「え?」 気まずそうな顔。 見上げないでもキスができる身長も。 そんなに大きさの変わらない馴染む手のひらも。 まだ、まだまだ全部好き。 「もう引っ張らないから」 「違う、そんなことじゃ」 「レディーファーストしてってもう言わないから」 「違う、そうじゃないんだ…」 「じゃあ何が、どこがダメなの……」 わかってる。 ダメなところを直したところで気持ちが戻ってこないことくらい。 でも、だって……他にどうすればいいの。 私はどうやって行き場のない気持ちを消化すればいいの。 「ちゃんと好きだった。今も嫌いにはなってない」 でももう、好き、ではないんだね…… 彼の低い感情を灯さない声が胸に響いた。 「私は……好きだよ。まだ、ちゃんと好きだよ…」 「うん、知ってる。…………ごめん」 最後にキスして。 そう言った私の目からぽとんと涙が落ちて、それを見た彼がわかったと言って唇を重ねた。 気持ちのないキスはこんなに涙を誘うんだね。 ただ唇をくっつけるだけ。 ただそれだけ。 わかった。 別れてあげる。 重ねた唇のまま言った。 言ってから思い切り彼の唇に噛みついた。 顔を顰めて血の滲む唇を指で押さえる彼に小さくごめんねと言った。 そうしてさよならを告げ、私から去る。 別れたくなんかない。 でも気持ちのない彼を縛り付けて、 また好きになってもらう自信もない。 だから、別れてあげる。 せめて。 これから誰かとキスをするたびに思い出して。 血が出るほど噛みついた女がいたって。 別れを告げても別れたくないって縋った女を思い出して。 それほど夢中で好きになってくれた女がいたんだって、 せめて忘れないで──────────
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