遊山

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私の家は、道路から少し奥まったところにある。近所の人にはこの声は届いてはいない。庭の木々が私達の喧狂(けんきょう)を隠している。 「いつまで余裕でいるつもり? 彼のこと何もわかっていないくせに、いつまで苦しめれば気が済むと思っているの?」 これまでに何人の女性達がこの家にやってきただろうか。レイ子を含めて、もう私の指では収まりきれないほどの数であったかもしれない。 その度に私は、その女の人をなだめてきた。だけど、なかなかすぐに理解してくれる人はいなかった。 「わかっていないのはレイ子さんの方よ。これまでだって、あの人は何人もの女がいたのよ。今のうちに別れた方があなたのためよ」 「そんなこと言ったって、私諦めないから。いつまでも奥さん気取りでいるあなたの方こそ、別れたらどうなの? 彼に頼りきっているくせに。重荷になっていることがわからないの?」 確かに、あの人のおかげでほんの少し贅沢をすることができるし、好きなこともやりたいこともできる。愛情はなくなっているとしても、恩情は残っているわ。 「あの人は私を愛していると言っていたわ。お願いよ、もう別れて!」 「レイ子さん、あなた、山登りはお好き?」 「は? 何言ってるの?」 「せっかくだから一緒に登りましょう。誰にも邪魔されずに、ちゃんとあなたと話したいわ。そこでじっくり今後のこと、話し合いましょう」 「わかったわ。付き合ってあげるわよ」 「ちゃんとしっかり準備してきてね。山をなめてはいけないわよ」
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