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「いい加減、彼と別れて!」
少し前から人の家に乗り込んできて、ずっと睨んでいるこの女は、主人の何回目の浮気相手だったろう。興奮冷めやらぬ勢いで顔を真っ赤にして騒いでいる。
「少しは落ち着いたら?」
切れ長の目に整った眉、鼻筋の通った先には薄く潤った唇、甘く芳しい香水を身に付け、肩甲骨まで伸びたストレートな黒髪のこの女性は、主人が好みそうな若くて妖艶なオーラを纏っていた。
「あなた、お名前は?」
「そんなのどうだっていいでしょ。それよりも、彼はあなたのこと、何とも思っていないわ。家にも帰ってないって言ってる。この意味、わかるでしょ?」
「もしかしてあなた、レイ子さんね? 主人から聞いているわ」
「えっ? そ、そうよ。なら知ってるわよね。だったら話は早いわ。とっとと彼と別れて」
ずかずかと入り込み、人の家で毒舌を吐き散らす彼女を、私はずっと冷ややかな目で見ていた。
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