遊山

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私は山を登る時、どんなメーカーの服とかどんなブランドの靴とかにはこだわっていないけれど、ただ一つ、ピンクの手袋だけは必ず持っていくの。私のジンクスみたいなものだけれど。 この手袋は、主人が私にくれた最後の贈り物なの。だからいつも大切な時にしか使わない、大事な宝物。 「どこまで登るつもりなの? 付き合うとは言ったけど、まさか頂上まで登るつもり?」 「仕方ないわね。近くに山小屋があるから、一本とらない?」 「どういう意味よ」 「そこで休みましょうか、慣れていないものね。疲れたでしょ?」 山小屋といっても、よくある山小屋ではない。主人が山登りを好む私のために、山小屋風の別荘を建ててくれた。私のお気に入りの場所である。 「今、コーヒーを淹れるわね。少し休んでなさい」 ちょっと濃い目に淹れたコーヒーを少しずつ飲み、身体も心も落ち着かせた。 お互いに牽制し、静かに流れる外から小川のせせらぎが、張りつめる空気を急かしていた。
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