遊山

その空気に耐えきれなくなったレイ子は、絡まって太くなった糸を乱雑に切るように、早口な口調で話し出した。

「もう一度言うわ。彼と別れて。あの人のことをもう解放して。でないと、あの人がかわいそうだわ。あなたみたいな我が儘な奥さんがいたら、いつまでたっても自由がないもの」

「そうかしら」

「そうよ。彼がこんなにも困っているのに気がつかないなんて、本当にバカな人だわ」

「レイ子さんの指、長くてきれいだわ。ジェルネイルも一層映えるわね。本当に羨ましい」

「な、何よ、急に。そうよ、これはあの人がかわいいと言ってくれたネイルよ。あの人の好みだって、好きな料理だって、全部知ってるんだから」

「本当に主人のことが好きなのね。でも、残念だわ。あの人はレイ子さんのこと、もう何とも思っていないのだから」

「はっ？ どういう意味よ。それはあなたでしょ？」

「私のところにあなたを導いたってことは、レイ子さん、あなたはもう主人に捨てられたのよ」

「何言ってるの！？」

レイ子がテーブルを強く叩き、コーヒーカップがぐらついた。カップからこぼれ落ちた水滴が、テーブルに色を染めた。