第一章 ミンキラウワ

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第一章 ミンキラウワ

 駅から出てしばらく歩くと、ザワっと強い風が吹き抜けて、桜吹雪に包まれた。  視界一面が薄桃色の風の中で境英志(さかいえいじ)は天を仰いだ。乱れ飛ぶ花弁の向こうは吸い込まれそうなほどに澄んだ青空だ。  周囲では桜の舞い散る様を目の当たりにした登校中の女子高生達が歓声を上げている。そうして、スマートフォンを取り出すと、桜の木をバックにきゃっきゃと写真を撮り始めた。その様子を見た他の通学中の高校生数人がそれに倣う。  だが、英志は戸惑うように立ち止まって背を丸めただけで、再び高校に向かってゆっくりと歩き始めた。  春がまたやって来てしまった。あの日の記憶を宿した春が。この先何度春を迎えても、僕はあの記憶から解放されることはないんだろう……。  眼鏡をかけた華奢な少年の英志は瞳を暗くして思った。  そのときだ。バシンっと背中を強く叩かれた。 「おはよう! 英志!」  幼馴染の小坂井楓(こさかいかえで)だ。ポニーテールを揺らし快活な笑みを見せる楓は中々の美少女である。 「……おはよう、楓」  英志は叩かれた背中を痛そうにさすりながら返事をする。
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