239人が本棚に入れています
本棚に追加
インターホンが鳴り、テレビ前に座っていたあゆらが立ち上がる。
「何か頼んでいたかしら?」
するとあゆらより先に、アキが食事を中断して玄関まで走ると、ドアにカリカリと爪を立てた。
「珍しいわね、いつも宅配便に反応なんてしないのに」
アキの後を追うように、あゆらが玄関に近づいた時だった。
「どうも、野間口運送です」
ドアノブにかけようとした手が、止まった。
換気のために開けていた小窓から聞こえて来たのは。
「もう忘れてるかもしれんけど、五年前にお預かりしたでっかい荷物お届けに参りました」
関西独特のイントネーション、掠れたように低く、雄くさい声。
あゆらは加速する心音を抱えながら、震える手で、ドアを押し開いた。
そこには、確かにあの日、あゆらの心ごと預けた、その人がいた。
天井につきそうなほど高い背を少し丸め、ツバを持ち帽子を深くかぶった彼は、青空色のツナギの作業着に黒のインナーを合わせ、ススキの穂に似た金髪をそのままに、壁を背にして立っていた。その胸ポケットには見覚えのある、高そうなレースの白いハンカチが覗いている。
あゆらはドアを開けた状態のまま動けなかった。
何度も何度も夢にまで見て、再会を渇望した彼が、目の前にいるのだ。
最初のコメントを投稿しよう!