1.それぞれの朝

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 その数時間後、関東の洗練された街並みでは、そんな裏社会とは無縁の清々しい朝を迎えた少女がいた。  初夏の爽やかな風に靡く艶やかな黒のロングヘアー。  白を基調としたセーラー服の長いスカートを花弁のように揺らしながら、岸本(きしもと)あゆらは今日も足取り軽く学校へ向かっていた。 「今日もいいお天気だわ。素敵な一日が始まりそうな気がする」  快晴の空に浮かぶ太陽の光を手で遮りながら、右目尻の泣きぼくろが印象的な美少女は麗しく微笑んだ。  この世には光と影が存在する。  生まれた時点でその選別は始まり、運と一言で片付けるにはあまりに不平等な現実がある。  しかし、その境界線は実に不鮮明で、意識していないだけで常にすぐ側にあるのだ。  その薄い硝子(がらす)のような壁が、いつ壊れてなくなるかなど、誰も想像しない。  昨日が平和であれば今日も、明日もまた同じ日々が続いて行くと漠然と考えている。  あゆらもその一人だった。  あの場面に遭遇するまでは——。
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