239人が本棚に入れています
本棚に追加
その数時間後、関東の洗練された街並みでは、そんな裏社会とは無縁の清々しい朝を迎えた少女がいた。
初夏の爽やかな風に靡く艶やかな黒のロングヘアー。
白を基調としたセーラー服の長いスカートを花弁のように揺らしながら、岸本あゆらは今日も足取り軽く学校へ向かっていた。
「今日もいいお天気だわ。素敵な一日が始まりそうな気がする」
快晴の空に浮かぶ太陽の光を手で遮りながら、右目尻の泣きぼくろが印象的な美少女は麗しく微笑んだ。
この世には光と影が存在する。
生まれた時点でその選別は始まり、運と一言で片付けるにはあまりに不平等な現実がある。
しかし、その境界線は実に不鮮明で、意識していないだけで常にすぐ側にあるのだ。
その薄い硝子のような壁が、いつ壊れてなくなるかなど、誰も想像しない。
昨日が平和であれば今日も、明日もまた同じ日々が続いて行くと漠然と考えている。
あゆらもその一人だった。
あの場面に遭遇するまでは——。
最初のコメントを投稿しよう!