44.金色の庭を越えて。

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「受取拒否もできますけど、どうします? ……あ〜、できれば、その、もらっていただけたら、永久就職という特典もついて来ますけど……」  答えなど、決まっていた。 「————受け取りますっ……!!」  あゆらは涙でぼやける視界の中、志鬼の胸に飛び込んだ。  バランスを崩した志鬼が尻もちをつき、帽子が舞う。  上に乗ったあゆらが間近で見たのは、懐かしい穏やかな獣の目だった。 「……たかが女一人のために、親と縁切りして小さい運送会社経営してる腰抜けでも?」 「何それ、最高じゃない」  あゆらの返事を聞くと、志鬼は感激したような照れたようななんとも可愛い表情をした。  そしてツナギのポケットから折り畳んだ四角状の紙を取り出すと、それを広げ満面の笑みであゆらに提示する。  “夫になる人”の欄には、すでに志鬼の名前が書かれていた。 「ほな……ここに受け取りのサイン、よろしゅう!」  一体、どれだけ思案したのか。  サプライズなど柄ではないはずなのにと、あゆらは愛しさと喜びに花も霞むほど可憐な笑顔を溢れさせた。 「似合わないわよ……バカっ……」  言い終わるのを待たずして、志鬼はあゆらに熱烈に口づけた。  あの日と変わらない逞しい腕に優しく押し倒されながら、あゆらは全力で志鬼を受け止めた。   ——END——
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