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円形の噴水の中央に位置する白のヴィーナス像が見守る庭園を抜け、階段を上る。
三階に着いてすぐに見える角が、あゆらたちの教室、二年A組だ。
あゆらを先頭に少女たちがドアを通り抜け室内に入ると、すぐに目を惹く人物が現れる。
並んだ席の後ろで、五、六人の男女に囲まれながら話している美少年。
やや明るいふわりとした茶系の髪に、優しげな垂れ目、控えめな鼻と口に抜けるような白い肌。
帝清志郎はあゆらたちが近づいて来るのに気づくと、壁に預けていた背を起こし、にこやかに声をかけた。
「おはよう、岸本さん」
「おはよう、帝くん。ご機嫌はいかがかしら?」
「とてもいい気分さ、暖かな日射しと爽やかな風の中、みんなと会うことができたのだから」
清志郎の声は、少女のそれのようによく通る。声変わりをしていないかのような澄んだ音色が美しい台詞を奏でれば、周りの者たちは皆うっとりと彼を眺めた。
「まあ、帝くんったら詩人にもなれるんじゃなくて」
「あはは、やめてよ岬さん。それよりも岸本さん、少し髪を切った?」
「あ、ええ、前髪を少し」
「とてもよく似合っているよ。美人は何をしてもいいね」
「嫌ね、帝くんたら」
このような歯の浮く言葉、一介の男が口にしようものなら鳥肌が立つが、清志郎はそうさせなかった。
名だたる外科医の一人息子でありながら、成績優秀、運動神経抜群、そしてそれを決して鼻にかけない気さくな人柄が周囲の好感と信頼を勝ち取っていたからだ。
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