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しかし、対するあゆらも負けてはいなかった。
清志郎に褒めちぎられようと、取り乱すことなく、恥ずかしがる様子すらない。
なぜなら、彼女が容姿を讃えられることなど、日常茶飯事だったからだ。
「岸本さんの髪は本当に綺麗だね、羨ましいよ」
そう言って清志郎があゆらの肩にかかる髪に左利きの手を伸ばせば、それを見ていた女生徒たちが黄色い声を上げた。
身長が161センチあるあゆらと、175センチの清志郎。細身で美形の二人が触れ合う瞬間は、まるで映画のワンシーンのように少女たちの目を釘づけにした。
——が、あゆらは清志郎の手が自身に触れる前に、優しく掌で制した。
「あら、帝くん、いきなり女性の髪に触れるだなんて、無粋じゃないかしら?」
薄く微笑むあゆらに、清志郎は一本取られたといった風に笑って見せた。
「確かにそうだね、とんだ勘違い紳士になるところだったよ。失礼いたしました、お嬢様」
「さすがあゆらさん。帝くんより一枚上手だわ」
「本当、帝くんに太刀打ちができるなんて、あゆらさんくらいね」
学友たちとの優雅な言葉遊び、小鳥のような笑い声。
(なんて穏やか日々なのかしら。今日も明日も、ずっとこんな日が続いていくに違いないわ)
あゆらがそんなことを考えた時だった。
登校してきた生徒の一人と、不意に目が合った。
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