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「ねえ、帝くん、よかったら今日の放課後、一緒にあゆらさんが賞を獲った絵画を観に行きませんこと?」
京子がそう問いかけると、清志郎は困った風に眉をへの字に曲げた。
「西大寺さん、お誘いありがとう。でもごめんね、今日は予定があるんだ」
「清志郎はバイオリンの練習があるから忙しいもんな」
「あっ、そうでしたわね、期待の星だもの、わたくしったら……」
清志郎の取り巻きにいた男子生徒に言われ、京子は口に手を当て申し訳なさそうにした。
清志郎は幼い頃からバイオリンを習っており、以前開催された全国のコンテストで十位に入るなど目覚ましい才能を見せていた。
「いやいや、僕は受賞したわけではないから大袈裟だよ、岸本さんの方がずっとすごい。僕もまた時間がある時にぜひ絵画を観に行かせてね」
「ええ、もちろん」
あゆらが頬にかかる美髪を指先で耳にかけた時、担任教師が室内に入って来ると同時に予鈴が鳴り響いた。
その日も滞りなく授業が行われ、皆放課後を迎えた。
あゆらの忌まわしい記憶となる、その場面に出くわす時がこくこくと迫っていた。
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