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1.それぞれの朝
「ほんまに行くんすか、この俺を置いて」
関西の中心部からやや外れた山手の里には、端から果てが見て取れないほどの広大な面積を誇る平家が建っていた。
ほとんどが漆黒で塗りつぶされた建物の正面玄関には、一際目を引く派手な金色の表札が上がっていた。
“野間口組、総本部”
人を寄せつけないその風格ある建ち姿が、厳しく恐ろしい歴史を物語るようだった。
「水くさいやないっすか、志鬼兄貴親衛隊長の俺に相談もなく」
「今すぐ解散して」
「せめてどこに行くかだけでも」
「言うたらお前、地獄の果てまでついて来そうやから嫌」
茶色の短髪にピアスだらけの耳、虎柄のスカジャンに大きめのズボンを身につけたいかにもチンピラ風の少年。
裏門に座りながら訴える彼を、前に立つ背の高い少年はあきれた様子で見下ろしていた。
「組長、ひどいっすよ、自分が気に入らんからってお払い箱みたいに……あの件で傷ついたのは志鬼兄貴の方やのに」
「……まあお前も飼い主離れするええ機会やろ。ほなな、虎徹」
名を呼ばれながら頭に手を置かれた少年は、涙で視界がぼやけるのを感じた。
迷彩柄のパーカーと茶系のジーンズに恵まれた体格を隠した彼は、大きな鞄を軽々肩に担ぎ歩き始めた。
「俺もそろそろ、覚悟を決めなあかんしな」
一つに結んだ志鬼の髪が朝焼けに照らされ、ススキの穂のように黄金色に輝いていた。
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