びびあんママの人生相談れいでぃお。

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「はーい! 【びびあんママの人生相談れいでぃお】のお時間ですよー。  皆様初めましてえ、新宿2丁目のバー『メビウス』でママをやってますオネエのびびあんでーす。  まだギリアラフォーよー。  どうして私がラジオに出ているのか自分でも良く分からないけどね、ほら、この時間の担当されてたタレントさん、逮捕されちゃったじゃないのファンの未成年女子とのほにゃららで。  んでね、今日の今日でしょう? 代わりの人を呼ぶ時間がないからってんでいきなり連れて来られたのよ、番組のディレクターに。んもう酷いでしょー?  まあ今夜だけだから許してちょうだいねー。  あ、うちのお店はノンケのお客さんも沢山来るから勘違いしないでね。黒川さんはノンケだから」    金曜の真夜中25時。    びびあんはバイトの椿(22)に店のラストを任せ、番組のディレクターである黒川に拉致されるような形でラジオ局まで連れて来られたのだ。    何度も断ったのだが土下座されて、   「番組時間に穴を空ける訳にはいかないんだ。電話とFAXでリスナーからの相談に答えるだけのママには簡単なお仕事だから。ね、ね、ね」    と言われて、酒飲んでるオネエなんて無法地帯同然なんだから無理だと言ったのに、気がつけば1人ブースで天井から下がっているマイクに話しかけている。    顔には出ないタイプだが、誕生日だったお客さんとハピバー♪ とか言って何度もグラスを空けているので、かなり酔っ払いなのである。    大体捕まったタレントのお兄ちゃんにファンのリスナーが相談したかっただろう話を、私が答えて嬉しい訳ないじゃないのよ。    びびあんはぼんやりとした頭で毒づいていたが、ガラスの向こうから【CM明け。電話1本目。がんば】と書いた紙を持った黒川が手を振っていた。    がんば、じゃねっつうの。  あー酒が回って呂律が回らなくなったらどうしよう。     「はあい、電話相談よー。びびあんが親身になってお答えするわ。もしもしー?」   『あ……こんばんは』   「あらお兄さんイイ声してるわね。やる気が出たわ。はい、今夜のご相談は何かしら?」   『……えっと、自分は、ハイヒールを履いた女性に踏まれたいとか思う事があるんですが、それって異常ですかね?』   「まあいきなりの性癖カミングアウトね。一発目からディープだわあ。  ハイヒール履いた男でよければ幾らでも踏んであげるんだけど、そうねえ、フェチってのは異常性癖の1つだから、まあ異常っちゃ異常よね」   『そう、ですよね……』   「だけど、踏みたい人ってのも世の中にはいる訳よ。だからね、……えーと、お兄さんお名前は?」   『ケンジです』   「ケンジさんね。んで、ケンジさんをハイヒールで踏みたいって女子が現れたらいい訳で、踏みたい踏まれたいの相互関係が出来るのよ。  そっからは趣味嗜好って方向にジョブチェンジ出来てハッピーライフよ。よそ様に迷惑がかからなきゃいいのよ。一人で悩まず同好の士を探しなさいな。ネットとかで交流サイトとか幾らでもあるだろうし」   『そう、そうですよね! 僕は変態じゃないんだ!』   「いや変態よ? 変態だけども、人に迷惑を掛けない変態は受け入れるのが日本人なの。ああそうなんだ、でスルー出来るものよ大抵の事は」   『やっぱり変態なんですね……でも、何か強く生きていけそうな気がして元気が出ました。ありがとうございます』   「そうよー、ネガティブな変態よりアクティブな変態でいられるよう頑張ってね! ちゃおー♪  あと踏んでくれる人がいなかったらメビウスまでいらっしゃいね、思いっきり踏んであげるからー」      ……イイ声だったのに変態か。惜しいわねえ。  まあ元気になったんならいいわよね。   【2本目。FAX】    黒川がテーブルを指差した。ああ、このカゴに入ってる奴ね。   「はあい1人目のケンジさんがアクティブな変態を志してくれたところで2人目のご相談はFAXで頂いてまーす。  えーと、ペンネームは『一生に一度はモテたいヒデオ』さんより。まあ誰でもモテたいわよねえ。  まあバッタとかゴキちゃんとかだったらさ、大繁殖大発生ってキャーキャー言われるモテ期が起きる事もあるけど、人生最初で最後の命がけだものねえ……まず全滅だし。えーとなになに、  『僕は鉄道オタクのせいで全くモテません。だけど鉄道愛は一生捨てられそうにないです。  でもでも1回位は女性にモテてみたいです。出来ればDカップ以上の巨乳で料理が上手い可愛いメガネっ子とかにモテる方法はないでしょうか?』  ……なるほどねえ。  モテない割に女子の好みがピンポイントで痛いわね。  ヒデオさんは勘違いしてるようだけど、モテるオタクってのは沢山いるのよ。特定の分野に知識と愛着がある訳だしさ。広く浅くしか知らない人よりいいって女子もゴロゴロしてるわよ。  自分がモテないのはオタクが理由じゃないって事に早く気づいた方が良いわよ。私なんかオタクじゃないけど全くモテないわよ。モテない言い訳すら出来ないわよ。  ──あら、目から鼻水が出てきたわ。やあね年取ると鼻水が出やすくて。  ……はい次は電話相談ですって。もしもしー?」   『もしもしこんばんはー』   「あら可愛い声ね。学生さん?」   『はい、さやか17歳です』   「高校生が夜更かしはダメよ……とかいいつつ、私もいつも夜中までゲームしてたり本を読んだりしてたから強くは言えないわね。  それで本日のお悩みは?」   『実は、私◯◯さんのファンなんです』   「ああ捕まった人? 残念だったわねえ、ごめんなさいねこんなオネエが代わりで」   『いえ、それはびびあんさんのせいじゃないですし良いんですけど、あの彼が捕まった元凶の女をどうにかする方法はないでしょうか?』   「……えーと、どうにかするって?」   『ほら、SNSで個人情報特定してヤンチャなお兄ちゃん達を複数送り込むとか、ないことないことネット上で拡散するとか。でも、リアルで苦しんでる姿を見ないと納得出来ないっていうか◯◯さんが可哀想で……』   「はいストップストップー。さやかちゃんそれ犯罪だからね。落ち着いて? どうどうどう」   『え? でもその馬鹿女も犯罪をそそのかした訳ですよね? ズルくないですか片方だけ罪になるって』   「いやそれはもっともなんだけどね。でもほら、手を出した大人の方が悪いってのはあるじゃないの」   『びびあんさんだって、めちゃくちゃタイプの男性が目の前にいて、これはいけそうだ、ってなった時に『20歳』って言われたら信じたいですよね? いえ信じませんか?』    人を信じるタイプの人間なのよ私は。  疑いもせずひあうぃーごーよ。  若いのにしっかりした考えをお持ちだわね。  頭の回転がいいのか、大好きなタレントを護りたくて必死なのか。   「さやかちゃんの言い分は分かるけども──」   『今も彼が△△警察で夜を過ごしてるのかと思うと、スマホのバッテリーが切れないか心配だし……』   「……バッテリー?」   『あ、彼のスマホにGPS仕込んでるので、電源オフになったらダメなんですよ。どこにいるのか分からなくなっちゃうし』      はーいストーカー来ましたー。    どうしてこんな相談者ばっかりなのー黒川さーん。  警察に教えてあげてー。    ガラスの向こうを見ると、黒川さんが慌てて電話を取り出して何処かにかけていた。     「……でもさやかちゃん、どうやってGPS仕込んだの?」   『え? テレビ局の清掃のバイトで控室入って合鍵作ったので、彼が仕事の時にカメラ仕込んでえ、シャワー入ったタイミングでこっそり入ってちょろっと。えへ』      不法侵入もやってますよーこの子ー。  怖いわ今の17歳ーーっ。     「さやかちゃんも犯罪行為しまくりだわよ。  自首した方がいいんじゃないかしらね」   『あ、それは大丈夫です。彼どうせ仕事も無くなるだろうし、私そこそこ可愛いんで水商売でもして稼ぎますんでヒモになって貰いますし。  これってあれですよね? 民事不介入って奴ですもんね。浮気の痴話喧嘩みたいなものですから』   「あら、まさか以前から◯◯さんと知り合いだったのさやかちゃん?」    だったら……。   『いえ、これから親しくなるところです』      そうよねー知り合いなら黙って合鍵作らないし監視カメラもGPSも付けないわよねー。  お巡りさーん。ガチでーす。ガチ来ましたー。  一見普通の会話をしてますけども内容が普通じゃないでーす。   「親しくなる行程を是非とも色々と伺いたい所だけど、まだ相談者の方が待っていらっしゃるので、今度また相談してもらえるかしらね? 今夜は本当にどーもありがとう!」      CMになるのを待って、部屋を飛び出すと黒川に詰め寄った。   「ねえちょっとどういう事なの? 変態に拗らせちゃんに最後はガチストーカーよ? あのタレントはこんな相談を受けてたの?」   「……いや、こんな変わったのがまとめて来たのは初めてだよ。ちゃんとさっきのは通報したし、◯◯ちゃんのスマホから逆探知して捕まる筈だから心配ないよ。  それにしてもびびあんママ、何か持ってるよねやっぱり!」   「何が持ってるよ。持ってるのは股間の如意棒だけだっつうのよ。まったく酔いも冷めるわ。ビールちょうだいビール。素面であと1時間は無理よ。  ああ、我が家と言う天竺に帰りたーい」   「天竺に行くには色んな困難が待ち受けているものじゃないか。ママだって乗り越えればいいんだよ。  大体あんな濃厚な相談者なんてそんな来るもんじゃないって。残りは多分普通に恋愛とか受験とかさ、そういう単純な奴だと思うから。ね、ね。  ビールはすぐ差し入れるからね。そろそろCM終わるから戻って戻って」    言われるままびびあんはまたブースに戻った。    好きなの1曲かけてあげるからと言われて中森明美をリクエストして、流れる歌にああやっぱり名曲ねえ、と思っている間に缶ビールも届き、一気に喉に流し込んだ。    ……そうよねえ、たまたまよね。  あんな相談店でもないわよ。  FAXの拗らせ系オタク君なんか全然可愛い方だったわ。電話がいけないのよ。  次はFAXの筈だし、サラッと気分転換しましょ。 「はーい、私の超お気に入りの曲を聞いて貰ったところで、次はFAX……え? 電話?  はい電話だそうでーす。もしもーし」    内心の舌打ちしたい気持ちを押し隠して、びびあんは明るく声を掛けた。   『こんばんは……』   「まあナイスミドルなお年頃かしら? 渋い声ね」   『こういち、54歳です』   「ま。やだわ先輩ね。もうこんな時間にオネエのラジオ聞いてたらダメじゃない。で、どうしました?」   『いえ、特に用と言うか……御礼を……』   「御礼?」   『私、会社が潰れまして、借金取りから逃げ回ってたんですが、何か疲れちゃいましてね。で、死んじゃうかー、と思って盗んだ車で昔初めて登山した山に来まして、睡眠薬飲んだんですよ。冬場だから眠れば楽に逝けそうだなって。  でも睡魔が訪れるまでの間暇だなと思ってラジオつけたら、びびあんさんの元気な声がしてねえ』   「バイクでなくても盗んだ車で走り出すのは十代までにしとくべきだけど、元気な声は嬉しいわ」   「それでね、何かもう一度頑張れるんじゃないかとやる気が出まして」   「良かったわ! もうそんな事考えたらダメよ? こんなぼっちのオネエでも何とか力強く雑草のように生きてるんだから」    ああ、ようやくいい話になったじゃないの!  そうよ、こういうのを待ってたのよ!  びびあんは胸がじいんとした。   「はい。頑張りたい……ん、ですけどね……薬が効いてきたのか何だか眠くて……」   「ちょっと待ってー! 寝たらダメよーーーーー!  そこ場所はどこなのーーー!」          結局最後までびびあんの求める胸アツストーリーはなかった。    こういちさんは、何とか聞き出した情報から地域を特定して救急車を走らせて助かったので、胸アツと言えない事はないが、下手して亡くなってて最後に話したのが自分だったらと思うとトラウマ案件なので、びびあんはノーカンだと思っている。       「んもう、大変だったのよう。芸能人も大変よねえ」      などと、椿ちゃんと数日後に店で笑い話にしていたびびあんが、リスナーから継続希望のハガキが山のように来たので来週以降も継続で、と黒川が再び土下座をしに来たので、全然笑えない話になってしまった。           「はあい、お待たせ~♪ 今夜も【びびあんママの人生相談れいでぃお】スタートよお~♪」      黒川から、店の宣伝CMも流してあげるし、お客さんも増えたら儲かるし、上手くいけば恋人も出来ちゃうかもよ? などとまた丸め込まれて、半年。      確かに店に客は増えたが、ラジオで必ず1回は面白い悪運を引き寄せるなどと不幸の手紙のような事を囁かれて、未だ恋人が出来る気配はない。            
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