弐話

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 駒井るいを見えなくなるまで、見送ると居間にいる祖母の背中に話しかける。南澤のときみたいに形代を使うのだろうか?それとも、間世にてあやかしを呼び調べてもらうのか。そのどちらかになる。 「藤ヶ谷穣のアパートは縁間堂の近くにある。明日でいいから、豊が見てきなさい」  よっこらしょっと声を出して立ち上がる祖母は、トイレトイレと言い小走りに走っていく。形代やあやかしを頼らない依頼ははじめてで。 「張り込みなんて刑事ドラマみたいなことできるかな?」  独り言を呟き、突っ掛けを脱ぎ上がり框を上り、台所へと向かう。藤ヶ谷穣の写真を見なければよかったと思ったのは、もし見張っているのがバレた時。ぼくは言い逃れなんてできない性格だからだ。 ※※※  縁間堂から徒歩十分くらい、狭い小路の中に雨どいが寂れたアパートが見える。藤ヶ谷穣は、一階の一〇三号室にいると駒井から聞いていた。 「隠れる場所なんてないじゃないか」  アパート近くの電柱は一方通行小路になっていて、車がギリギリ通れるくらいの道。こんなところに立ち隠れていたらクラクションを鳴らされ気づかれる。石壁の向こう側は駐輪場になっているが、砂利道で忍び足でないとバレてしまいそう。決断が遅かったのか、背後から近づく人物に気づくのが遅れびくりと身体を震わせていた。 「こんな時間にどうした?ぼうず」  振り向くと工事現場の作業着を着ている藤ヶ谷が、心配そうに見つめていた。駒井の友達と名乗るには歳が離れすぎているし、あぁ詰めが甘いな。プラン別のパターンをもっと考えておくべきだった。 「ぼくは、縁間豊と申します。頼みごとの依頼がありまして藤ヶ谷さんを見て来てほしいとのことで」  苦し紛れの言い訳、依頼内容は他人に話してはならない決まり。遠回しのセリフが噓くさく乾いた笑顔で誤魔化しているぼく。 「つくったーだかで、流行っているんだってな。短期バイトの募集。悪いバイトじゃなくて良かったじゃねぇか!!」  油汚れで変色している片手を上げて、肩に触る前に引っ込める。ぎこちない笑顔のまま藤ヶ谷が苦笑する。 「ぼうずの綺麗な服を汚してしまうとこだったぜ!!あぶねぇあぶねぇ、こんなとこで突っ立ってたら危ないから俺の部屋入んな?」  第一印象は大声で気さくに話しかけてくれる優しい人。見極めの話しが出来るか不安で心臓がバクバクと波打っていた。
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