弐話

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 縁を結ぶ人物には、必ず間世の世界に行ってもらわなければいけない決まりになっている。  ただ、ぼくらが決めることではなく、縁間堂をよく思わない人も存在しているから、判断は当事者に任せているのだ。 「縁間堂?見たことはあるが、誰もいない雰囲気があって入りづらくないか」 「導かれし者だけが入店できる不思議なお店なんです。藤ヶ谷さんは、御縁があるので入店は可能です」  藤ヶ谷は胡座をして顎を擦り、唸り声を上げどう返答すべきか悩んでいるよう。ぼくの聞き方がまずかったようだ ・・・ 「強制はしていませんので、ご安心ください」  こんな時、祖母ならなんと返すのだろう?相手に考える時間を与えるべきか。この間のような緊迫感はない。 「藤ヶ谷さんの時間があるときに、こちらの番号に電話を掛けてくだされば、またお伺いしますので」  縁間堂について書かれた紙を手渡す。料金と下記には縁間堂の固定電話が記されている。藤ヶ谷は視線を移し文字を読むと、一ヶ所の部分で険しい顔つきに変わる。 「悪縁祓いの料金がねぇ・・・結構な額だなぁ。縁間少年、もう一つだけ質問があるんだけどよ」  上目遣いで聞いてくる藤ヶ谷の声が小さくなる。内緒話でもするような声音で、首を傾げ、片手の指先で畳を一定感覚で突いている。 「過去に縁があった人も来るのか?」  藤ヶ谷を悩ませている問題は二つ。料金と、導かれし者について。 「招かれると言ったらどうなさるんですか?」  ぼくは質問で返して藤ヶ谷の反応を伺う。話の内容から、承諾は得られないだろう空気が漂っている。  とんとん、とんとん、とん。  指先の動きが止まる。藤ヶ谷の返答を待っていたぼくは、コップを傾けた、ぬるい水が乾いた喉をごくりと鳴らす。 「俺に関わる人が依頼したんだよな?」  鋭い視線がぼくの視線を捉える。藤ヶ谷はそのまま質問を重ね聞く。 「悪友か、それとも最近知り合った人か?」  視線や身体を少しでも動かせば、ばれてしまうのでは?そんな威圧感がぼくには耐えられなかった。 「最近知り合った人のようだな」  ぼくの僅かな動きを見た藤ヶ谷に見透かされる。困惑気味の声で質問を遮る。 「それ以上は、聞かないでください。嘘がつけないんです」  がははと大口を開けて笑う藤ヶ谷の視線が、優しい視線に変わり。 「悪かった、悪かった。もう、困らせやしないよ・・・しばらく考えさせてくれ」  見極めの質問をしたのは、ぼくではなく藤ヶ谷だった。縁間人(えんまびと)としては、まだまだひよっこだと思い知らされたぼくは、肩を落とし、縁間堂に帰っていく。
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