弐話

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 その人に対する想いが強いと、糸がはっきりと見え始める。緑色の縁がはっきり濃くなるとき、確かな繋がりが見えてくる。 「嫌いなんてそんなことは、言ってません!!」  るいの母親は強い口調で返した。その言葉に嘘は見受けられない。ぼくは苦笑を浮かべ非礼を詫びる。 「大変失礼なことを申し訳ございません」  藤ヶ谷穣に対する想いを再確認した後、基本的な質問に入る。母親はカップを傾け紅茶を一口飲む。 「ぼくは、縁の間を引き受ける人と書いて縁間人を受け持っております。縁間豊です。失礼を承知でお尋ねします。駒井さんの名前を教えてください」 「あぁ、そう言えば言ってませんでしたね。加奈子(かなこ)です」  加奈子は黒髪を耳にかけながら答える。年齢は娘のるいから聞いているから、再度聞く必要はない。縁間人をしている時、女性に年齢を聞くと態度に出す人と嘘でごまかす人がいて聞くのに苦労する。 「祖母に誰かに見られていると仰っていましたが、それは藤ヶ谷穣さんに関係する人なのは確かなのですか?」  時々いる過去のことを交際相手に聞いた後、気にしだす人が。加奈子はその人のようだ。元カノ、友好関係を気にする人。そんなことを気にしない人はいるのだろうか?たぶん、ぼくに友達がいればそんな風に友達の過去を気にするだろう。気にする=その人が知りたい、近づきたいという行動だから。 「え?それは・・・・」  言葉に詰まり視線が左右に動き出す、嘘ではないが確かなことが言えない。曖昧な記憶を思い出しているだろう?ぼくはさらに質問を続ける。 「その人は駒井さん母娘に危害を加えましたか?」  左右に首を振り否定する加奈子。言葉に詰まりながら、返答する姿に正直な感情が交じる。 「藤ヶ谷さんの過去を知った後だから、なおさら過敏に反応していたのかも。勘違いしてたんだと思います」 「過去を知った今でも一緒になりたいと思いますか?」  一番の質問を加奈子さんに聞いた時、縁間堂のガラス戸が開かれる音が響いた。藤ヶ谷穣の声が背後から響く。 「ごめんください。話があり伺いました」  藤ヶ谷穣の来訪に驚きを隠せない加奈子の側を通り過ぎ、居間の障子戸を開け閉めして、藤ヶ谷穣の側に近づいてく。彼に靴を見えないように立ち位置を考えて、藤ヶ谷の本心を知るあとの加奈子の態度はどうなるのだろう? 「やっぱり、幸せにしてやりたくて。過去なんて関係ないって言いきりたいけど・・・そういうわけにはいかないからさ。だったら俺が二人を守ってあげればいいって思ってよ」 「そうですか」  ぼくの視線は藤ヶ谷穣の左手薬指をちらりと見て笑う。ささいな変化でも気づく藤ヶ谷はぼくの視線の先を見て首を傾げる。 「縁間少年、俺の左手になんかついてんのか?キツネ目がもっと細くなってるぞ」  キツネ目をしているぼく、笑っている時もっと目が細くなる。その笑みがいい笑みなのか悪い笑みなのか判断しにくいと、戸惑われた過去が過ぎる。 「えぇ、まぁ。藤ヶ谷さんどうぞこちらへ」  藤ヶ谷穣を居間へと通す。障子戸を開け放ち、靴を脱ごうとしていた藤ヶ谷が先客がいるのに気づき、小声でぼくに囁く。 「客がいるのにいいのか?」  ぼくが返事を返す前に、加奈子が藤ヶ谷を抱きしめていた。駒井母娘が来店していることを教えなかったぼくを少しだけ睨む藤ヶ谷。二人の左手の薬指の糸がはっきりと形を示してきた。 「わたし、この人と一緒になりたい!!!」  唐突のプロポーズに戸惑いながらも加奈子の背中をギュッと抱きしめる藤ヶ谷。ぼくはしゃがみ込み、二人に向けて話を続ける。 「お二方の縁ははっきり見えます。藤ヶ谷さん、駒井加奈子さんこれからお二人を間世へと案内しますので、こちらでご説明をします」  机を挟む形で横並びに加奈子と藤ヶ谷が並ぶ、ぼくは和箪笥から和紙を取り出す。筆をそれぞれの位置に置くと、墨汁の入った容器を二人の間に置く。 「こちらの和紙に、氏名をお書きください」  片手を差し出し一枚の和紙に氏名を書くように伝える。二人が筆を持ち墨をつけ氏名を書き始める。駒井加奈子は文字が丸くなって小さめな氏名。藤ヶ谷穣はでかでかと乱雑な文字の氏名を書き記す。  小さな針を一本ずつ二人の前に置き、指先を刺してもらい、流れ出た血で氏名をなぞり終えると。 「しばし、お待ちください」  バタン  障子戸を閉め居間に二人を残し、ぼくは二階へと上がる。自室で正装に着替え再び階段を降りていく。ぼくの恰好を見た二人が神妙な顔つきに変わる。 「こちらの緑の紐を手首に巻き付けてください。間世では会話はできません。会話を交わすときはこの紐を強く握って下さい。それとこのお札を額から貼っていただきます」  お札には先ほど描かれた文字が浮かび上がっている。二人の視線が何故と尋ねているので、ぼくは間世での決まりを話して聞かせた。
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