弐話

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 藤ヶ谷の家庭は複雑で、両親のケンカが絶えることはない。幼少期から愛されたと感じることなく育った少年は次第に手をつけられなくなるほど、非行の道へと歩んでいく。 『学校から何度呼び出されることか!!』  母親はため息混じりに、指導室へと入っていく。家では高圧的な父親に怯え、溜まったストレスをぶつけるところを間違える。 『金、ねぇよかよ!!』  立場の弱い生徒を見つけては、脅迫し、金をむしり取る。拳が赤くなるのは毎日で怒りを壁に叩きつけているから。父親のようにはなりたくないと暴力だけはしないと誓っていた藤ヶ谷少年は変わってしまう。  中学で不登校になり、悪ガキが集まる集団に入り、何度も警察の世話になる。父親は、モラハラで母親を追い込んで、追い詰められた母親に就寝時に首を絞められて起き上がり、家出をした。 〈そんなことひとことも・・・〉  加奈子が胸に手を当て目をつぶり涙を流して膝から崩れ落ちる。藤ヶ谷の言葉の意味を加奈子が理解し、受け止めようと必死に泣きながら前を見つめ続けている。 〈るいちゃんの父親としてやっていけるか、不安で。駒井さんがはいていた言葉通りの人間さ〉  前に見せられた加奈子の裏の顔。心に湧いた疑惑の声。 『元ヤクザがつくひとなんかに、なんでるいは親しくするの?』  嫉妬心が暴かれたとき、横にいる藤ヶ谷を見て距離をとった加奈子。この行動の意味をしっかり見極めなければいけない。 「これで両人の本音が見えたわけだ。藤ヶ谷の人生はけ褒められたものではないが、これから変えていくことが出来る。鬼たちとともに見ておるからな」  閻魔様の言葉が地鳴りのように響き渡る。周囲を囲っていた鬼たちは肩を落とし残念そうに愚痴っている。加奈子はどんな心境なのだろうか?  視線を加奈子の方に向けると、両手で顔を塞いでいる指の間の隙間から口元が見えた。その表情と暴かれた本音が、ぼく自身の判断を惑わせていた。
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