弐話

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 ぼくらは間世から帰って来て、一階で寝ていたるいを起こすと、縁間堂に向かう。 「料金は、百拾五円になります」  るいが可愛らしい財布から小銭を取り出し、祖母へと手渡す。 「百拾五円ちょうどですね。御縁結ばせていただきました。この度は、ありがとうございました」  祖母とぼくは深々と頭を下げて、駒井親子と藤ヶ谷に別れの挨拶を交わす。 「ありがとうございました。おばあちゃん、それとお兄さん」  るいの願いは叶った。本来ならば喜ぶ場面でぼくは必死に笑顔を作っていた。 ※※※  三人を店先まで見送ると、戻ってきたぼくに祖母が話しかけた。 「お客様の前では悟られてはなりませんよ」  祖母は見えていたのだろうか?ぼくは気になり続けざまに質問していく。 「ばあちゃんは見えているの?加奈子さんと藤ヶ谷さんの糸は強くなったけど、色は良くなかった。間世にいたとき、加奈子さんの本音見たよね」  現世での二人を繋ぐ糸はモスグリーン色の爽やかな色、二人の関係も穏やかでとてもいい感じに見えた。けれど、実際悪の感情まみれだったのは、加奈子の方だった。 『るい、藤ヶ谷おじさんともっと仲良くしてね。お母さんとと思わせてね』 『藤ヶ谷おじさん、優しいしいいけど、なんで?』  ぼくが見聞きし鳥肌が立っていたのは、泣き崩れていた加奈子が笑っていたから。 『お母さんが楽になるからよ』 〈藤ヶ谷に任せれば、わたしは〉  働き続けて疲れたから休みたいと言っているように見えるけれど、実際は子育てに嫌気がさしている加奈子。娘のるいが藤ヶ谷と親しくなるにつれその思いが増していく。 「ばあちゃん、ぼくにはわからないよ。あんなに応援したいと思っていた人達なのに、実際はなんて」  藤ヶ谷は全てを知っても加奈子たちといたいと言い続けていた。藤ヶ谷は温かな家族に憧れ、るいは父親を欲し、母親の加奈子は自由を求めている。見た目は仲のいい家族に見えるけれど偽りだらけの家族になる。 「いろんな形があるんだよ。わたしたちがお手伝いするのはここまで、あとは三人次第だよ」  縁間堂を手を繋ぎ去っていく、三人の周囲は黒い霧で覆われていた。振り返り会釈をする加奈子に何重もの仮面が、素顔を隠す。ほんとうにいい関係を結んだのは、藤ヶ谷とるいの二人だけ。 「るいちゃんの願いが叶えられますように」  幸せな家族を望んでいる少女の願いが叶うことを祈ることしかできなかった。モヤモヤとしたものがとりついていて、御縁を結んだはずなのに、祓えば良かったと後悔ばかりがぼくの胸の中を支配していた。
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