参話

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参話

 降り続いていた雪がだんだんと解け、縁間堂に春の季節がやってくる。春は出会いと別れの季節でもあり、縁間堂の繁忙期に突入していく。 「ばあちゃん、大丈夫?」  月に指折り数える程度の仕事しか来なかった縁間堂は、依頼が殺到していて平日は毎日間世へと向かう日々。高齢である祖母の体力が気がかりなぼく。 「ばあちゃんの心配ばかりしてないで、豊は間世に慣れんといけんね。お客様の前でも平然と顔に出さないようにしないとね」  藤ヶ谷夫妻が訪ねてきたのは十二月の終わりごろ、冬休みの間。塾の帰り道になるようで、娘のるいから手渡しでぼくに差し出された写真には満面の笑顔の三人が写っていた。 『るいは幸せだよ』  少女の言葉は嘘がなく、るいを囲っている色は幸せの温かな赤色に満ちている。一瞬だけでも、この縁結びは間違っていると疑ったぼくを恥じたいくらい。 「気を付けるよ」  心を悟られないよう、感情を抑えなければいけない仕事。少しでもお客様に伝われば、縁が緩み、繋がっていた糸が切れていく。 ※※※  チリンチリン  軒先に下げている鈴が鳴る。お客様はあやかしか幽霊のよう。 「縁間堂へようこそ」  お客様を迎え入れるために、ガラス扉を開けて笑顔を向けるぼく。お客様は、開けている扉を四足歩行で通りすぎていく。 「縁間堂へようこそ。いらっしゃいませ」  祖母はいつも通りの挨拶をする。お客様からは返事はなく、身体を丸めてこちらをじっと見つめるばかり。 「大変失礼しました。今すぐご用意しますので」  ぼくはお客様に一礼してから、階段をかけ上り、間世に行くときに使う緑色の太い紐を手元にまとめて階下に待つお客様の元へ向かう。  前足で緑色の紐を踏むと、お客様の低い声が耳元で響く。その紐は枝分かれしてぼくと祖母の手元の中にある。 〈ぼくがいなくなったあの家はどうなっているか知りたい〉  依頼主は亡くなってから日の浅い黒ねこ。さ迷う魂はときに人間以外の魂を引き寄せることがある。あやかしや動物の言葉は、緑色の紐を通さなければ、理解できない。 「未練がおありのようですね」  黄金色の瞳が潤み始め、前足の強さが現世で残していた未練の強さを表していた。
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