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縁結びでもなければ、悪縁祓いでもない。未練払いは悲しい思いが強くなる。その悲しみが怒りへと変わることもしばしあることで。祖母の前で身体を丸めている黒ねこは、どんな未練を残していたのだろう。
「お名前を教えてください。わたくしは店主のサチ、そちらにいますのは、孫の豊です」
黄金色の瞳が祖母からぼくに向けられる。きーんと耳鳴りが響き、視界がぐるぐると揺らぐ、めまいが激しく倒れそうになるけれど、なんとか踏みとどまり黒ねこから伝わってくる気を読み取ることに集中する。
〈ぼくはハル。飼い主は一人暮らしのおばあさん〉
黒ねこ、ハルから読み取れた感情は、愛に満ちていた。温かな赤色にほんの少しだけ悲しみの水色が混じっている。
「ハルさんはすでに火葬されていて、魂だけのお身体です。このまま現世を漂うことは危険です。浮遊霊から悪霊へと変わってしまうかもしれません」
ハルは落ち着いていた。魂になっていることはわかっている。強い視線を祖母のほうに向け前足で緑色の紐を踏む。
〈ぼくは、生まれ変わってまたあの人に飼われたいと思っている〉
決意は揺るぎないもの。はっきりと言いきった黒ねこのハル、心残りは飼い主の今。
〈ぼくだけがわかってあげられたのに、一人にしてごめんって伝えたい。けど、人間に動物の言葉がわかる人はいないから・・・〉
特殊な訓練をしている人にしか動物の言葉はわからないだろう。その言葉の真偽はどちらでもよくて、飼い主は動物の気持ちを知りたいと望む。
「ハルさんの飼い主さんを想像してもらえませんか?」
祖母と紐伝えで話をしていたハルは、ぼくに視線を向けて小さく頷くと、目を閉じ思いを伝えてくる。魂の気持ちを伝えることが出来るのは、ぼくにしか出来ないこと。
ぼくの頭の中に一人のお祖母さんが実体化して現れた。
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