壱話

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 くしゃくしゃと紙を丸める人を何人も見てきたぼく。南澤の態度は予想できていたので驚きもしない。彼から発せられる返答は、訪れるお客様全員が口にする。 「ぼったくりもいいところだ!!」 「落ち着いてくださいな。南澤さん」  祖母が諭すような口調で話し続ける。ぼくは倒れた椅子を起きらせるため、南澤の近くに小走りに走っていく。丸めた紙を叩き落として縁間堂を去っていくお客様がいるから。 「僕を止めるのかい?」  南澤の切れ長の視線が、ぼくに向けられる。左右に首を振り否定して、祖母から教わった言葉をそのまま口に出して言う。 「お客様の嫌がることは致しません。ぼくが南澤さんを止めさせる理由はありません」  南澤はホッとして、足を前進させる。彼の背中におぶられている女性が、涙を流している。ここからは、ぼくの見たことを伝える。彼女が伝えてきた切なる思いを・・・ 「佐由美(さゆみ)さんが、ぼくに伝えてきました。南澤さんはから動けずにいると」  ジリ  南澤の革靴の爪先がぼくらのほうに、向き直る。その革靴は土で汚れていて、コートはくたびれたまま。 「僕は自分の名前しか教えてないのに、どうしてきみは妻の名前を知っている?」   ぼくの肩に南澤の両手が下ろされ、困惑気味の顔が間近に映る。南澤の背後にいる佐由美が口を動かす。ぼく以外聞こえる者はいない、祖母は姿形だけが見えるだけ。 「南澤さんのそばにいるからですよ」  肩から手を話した南澤が上体を左右に動かして周囲を見渡している。どんなに見渡しても佐由美の姿はないのは知っているはずなのに、南澤の表情は緊迫した感じがヒシヒシと伝わってくる。 「?」  頷くぼくを見た南澤は、先ほどまでの態度が変わり怖ろしい者を見た目つきになる。じりじりと後方へと離れ、店の入り口のガラス戸近くまで距離を置き聞き返す。 「佐由美の特徴を言ってくれないかい」  判断に困ったぼくは、祖母のほうに視線を向ける。祖母が小さく頷きぼくの代わりに質問を返す。 「南澤さんの判断に任せますよ。これから孫の豊が言うことを信じるも信じず、縁間堂から出ていくことがあっても、止めはしません」  南澤が小さく頷き返すのを確認したぼくは、背後にいる佐由美さんの特徴を話し出す。
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