壱話

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 灰色の空の下ぼくらは、一列になり道を歩く、南澤は上空を見て周囲を見渡し落ち着かない様子。手首に付けた緑色の紐を強く握りしめる。 〈ここは間世(かんよ)です。上空を飛び交うのは、黒羽が生えた鬼たち。あやかしたちは、この世界に住んでいます。ぼくら人間を食らうあやかしがいるので、ご注意を〉   南澤が振り返ろうとしたので、ぼくは緑色の紐を握って制す。 〈振り返ってはなりません。緑色の紐を強く握れば、ぼくらだけで会話をすることが出来ます〉  人間と悟られては命の危機に直面する可能性が高くなる。間世では、立ち止まってはいけない、口を動かし話すことも禁じられている。ぼくとお客様を繋ぐ緑色の太い紐は唯一の会話手段。 〈まるで、話しているみたいですね。あやかしたちには、僕の存在はどう映るのです?〉 〈人の姿を化したあやかしに見えているでしょう。親しみやすく呼ばれているあやかしは、ネコやキツネ、タヌキなどがわかりやすいでしょう〉  南澤は、納得した声を出し続けて質問をする。ぼくらは進みながら、目的の場所を目指していく。 〈佐由美の魂がいるのですか?この世とかあの世とか、佐由美はまだ死んでないのでしょ?〉  チリンチリンチリン・・・   祖母が身に付けている鈴がけたたましく鳴る。身体を震わせ戸惑う南澤の足が止まりそうになる。 〈佐由美さんの魂はもういませんよ〉  後ろから歩調を崩さずにぼくが続くので、南澤が立ち止まることはない。南澤の背中には佐由美の魂は消えていて、別の魂を引き寄せている。 〈じゃあ、どうして倦怠感が治らないんですか?〉 〈悪霊から、南澤さんを護っていたのです。心配なさらず、佐由美さんの実体に戻りました〉  ホッとする南澤の姿に気を緩みそうになるが、彼の周囲を漂う悪霊たちから、護らなければとふたたび気を引き締める。  チリン、チリン、チリン。  鈴の音が三度響き渡る。祖母が目的地に着いた合図を送る。一番後ろにいるぼくは、背後と周囲を確認して、南澤の横に近づく。 〈まだ、悲しい思いが強くなっているからです〉  魂は現世へと消えていくが、佐由美の悲しい思いは南澤に向けられたまま。 「今度は、孫を連れているのかい?」  間世で祖母に声をかけたのは烏天狗(からすてんぐ)。烏天狗の力を借りて、悪霊を払う。祖母は昔からの顔馴染み、父が失踪する前は、親子で間世へ行き来していた。 「御主に見てもらいたい縁があるのじゃが」   祖母が移動し、南澤の身体が風に引き寄せられるように、烏天狗の前に行く。ぼくらは両端で黙り様子を伺う。
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