壱話

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 佐由美が意識を取り戻し、握られている手を動かすと、寝ていた南澤が目覚める。 「おはよう卓也さん」 「おはよう、佐由美」   南澤の体調の変化に気づいた佐由美が優しく話しかける。南澤は状況を把握していないよう。型代に化けた南澤から聞いていた通りの反応にくすくす笑う。 「」  佐由美の言葉に首を傾げている南澤はベッド横にあるナースコールを押して看護師を呼び出す。 「お願いって何を願ったの?」 「卓也さんの笑顔が見れますように。願い事が叶ったから、言ってもいいの」 「なんだよ、意味深な発言して。でも、良かった佐由美が目覚めてくれて」   もう少ししたら、医師と看護師が部家に駆けつけるだろう。その前に佐由美は南澤に質問をする。 「卓也さんは?」  両手で包み込むように、優しく佐由美の手を握りながら、迷いもなく南澤は答えた。 「佐由美のそばにいただろう?」  佐由美は一瞬の戸惑いを浮かべ、駆けつけた医師たちの問診を受けながら、思い出していた。南澤がほんとうにいた場所の事を。 ※※※  佐由美は南澤を通じて、共に縁間堂を訪ねていた。経緯は南澤を通じて知っている部分が多い。店主の縁間と居間で話したときの一部の記憶は、佐由美に向け話されたこと。 『貴方の縁が結ばれたとき、ここを訪ねた記憶は消されます。ただ、依頼人である方にはしっかりと請求させていただきますので』  あの時、南澤が縁間堂を訪ね依頼したように思えるけれど、二人の視線は常にわたしに向けられていた。 ※※※  医師の問診と軽い診察を終えた佐由美は、ベッドの上体を手動で起こしてもらいながら、南澤に話しかける。 「卓也さん、わたしの口座から縁間堂宛に振り込んでくれないかな?ちょっと高い金額なんだけどね」  縁間堂を訪ね不思議な体験をした南澤が変わったのは事実で、佐由美の悲しい思いを祓ってもらった額としては相応だと思う。何よりもこうして、わらいあいながら話せる日が来たのだから。  
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