19人が本棚に入れています
本棚に追加
佐由美が意識を取り戻し、握られている手を動かすと、寝ていた南澤が目覚める。
「おはよう卓也さん」
「おはよう、佐由美」
南澤の体調の変化に気づいた佐由美が優しく話しかける。南澤は状況を把握していないよう。型代に化けた南澤から聞いていた通りの反応にくすくす笑う。
「お願いしてよかったわ」
佐由美の言葉に首を傾げている南澤はベッド横にあるナースコールを押して看護師を呼び出す。
「お願いって何を願ったの?」
「卓也さんの笑顔が見れますように。願い事が叶ったから、言ってもいいの」
「なんだよ、意味深な発言して。でも、良かった佐由美が目覚めてくれて」
もう少ししたら、医師と看護師が部家に駆けつけるだろう。その前に佐由美は南澤に質問をする。
「卓也さんはどこにいたの?」
両手で包み込むように、優しく佐由美の手を握りながら、迷いもなく南澤は答えた。
「佐由美のそばにずっといただろう?」
佐由美は一瞬の戸惑いを浮かべ、駆けつけた医師たちの問診を受けながら、思い出していた。南澤がほんとうにいた場所の事を。
※※※
佐由美は南澤を通じて、共に縁間堂を訪ねていた。経緯は南澤を通じて知っている部分が多い。店主の縁間と居間で話したときの一部の記憶は、佐由美に向け話されたこと。
『貴方の縁が結ばれたとき、ここを訪ねた記憶は消されます。ただ、依頼人である方にはしっかりと請求させていただきますので』
あの時、南澤が縁間堂を訪ね依頼したように思えるけれど、二人の視線は常にわたしに向けられていた。
※※※
医師の問診と軽い診察を終えた佐由美は、ベッドの上体を手動で起こしてもらいながら、南澤に話しかける。
「卓也さん、わたしの口座から縁間堂宛に振り込んでくれないかな?ちょっと高い金額なんだけどね」
縁間堂を訪ね不思議な体験をした南澤が変わったのは事実で、佐由美の悲しい思いを祓ってもらった額としては相応だと思う。何よりもこうして、わらいあいながら話せる日が来たのだから。
最初のコメントを投稿しよう!