おかあさんの冷たい手

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小学5年生まで、お母さんは本当は雪女なんだと思っていた。 色白で、痩せていて、髪が長くて、すごく手が冷たい。 絵本で見た雪女によく似ていた。 子どもだったわたしは、隣で寝ていると夜中に凍らされるんじゃないかとドキドキしたし、お風呂からなかなか出てこない時は、もしかして、溶けちゃったんじゃないかと心配して、そっと様子を見に行ったりした。 暑い夏、お母さんの手を頬に押し付けると、ひやっと気持ち良くて好きだった。 逆に冬のお布団で足が触れると、目が覚めてしまうくらいの冷たさだった。 今は、わかる。 お母さんが、ものすごく冷え性だったってこと。 すっかり大人になったわたしは家を出て、両親と離れて生活している。 お盆休み、酷暑と言われる暑さの中、久しぶりに実家に顔を出した。 「ただいま」 玄関を開けると、ひやり、と冷たい空気が頬に触れる。 断熱材をしっかり入れているから、この家は他所より涼しいんだよとお父さんの自慢の家。 外から帰ってくるとそれを実感する。 「おかえり、暑かったでしょう」 お母さんが出迎えてくれる。 色白で痩せて髪が長くて、昔からちっとも変わっていない。 「これお土産」 駅前で買ってきた、お母さんが好きなアイスクリームを渡す。 ビニール袋を渡すときに触れた手が冷たい。 雪女みたいだと、久しぶりに思った。 「ちょっと溶けてるかも」 「すぐ凍らせちゃうから大丈夫よ」 お母さんは涼しい顔でそう言った。
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