第二章『囚人たち』

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「おい、今のって……」 「爆発だね……!あっちからだ!行ってみよう!」  陽太のことが気になったが、もしかしたら自分たちの他にも人間が存在する。  その話を聞いたばかりだからだろう。俺達は考えるよりも先に、爆発音が聞こえた方向へと駆け出していた。  日の光が入らないため薄暗い通路を駆け、俺達は走る。  本当に、どこの窓も塞がれていた。 「確か、ここの辺りから聞こえたはずだけど……」 「進藤君、この辺りで鍵が掛かっていた教室、覚えてるか?」 「確か……家庭科室だ!」  その言葉を合図に、俺達はそう離れていない家庭科室へと再び走り出した。  家庭科室前。  正しくは、家庭科室だったであろう場所の前。  立ち込める煙。辺りに散らばった瓦礫の中、そいつらはいた。 「うわーお、まじで爆発しちゃったねぇ~頭吹き飛ぶかと思っちゃった」 「だから言ったでしょう。ここで爆発を起こすべきではないと」 「えー?だって、どっちにしろ爆発しちゃうんだからさぁ?一緒じゃん?」  聞き覚えのある独特の間延びした声に、冷たく温度を感じさせない声。  佇む二つの影に、俺達は目を丸くした。 「木賀島(きがじま)……と、篠山(しのやま)か……?」  恐る恐るその名前を口にした進藤。  すると、全身の煤を払っていた二人は俺達に気付いたようだ。 「あっれー?宰、篤紀に委員長じゃーん!久し振り?!」 「珍しいですね、三人が一緒に居るなんて」  いかにも頭が悪そうな赤髪の男は木賀島那智(なち)。  対して、ブレザーをきっちり着込んだ偉そうな無表情男は篠山(るい)。  二人とも、卒業してから全く会わなかったが昔からなかなか癖があるだけにすぐに分かった。  そして、これでハッキリとしたわけだ。間違いなく、中学のときのやつらがここに閉じ込められていると。 「待って、どういうことかな。今の爆発って、もしかして……」 「ええ、何やら時限爆弾が発動してしまいまして、間に合わないと判断したので装置ごと投げたんですよ」 「あの時のルイの顔面白かったよね?!」 「いやいやいや、なんでお前ら無事なんだよ!今、結構爆発しなかったか!?」  流石の進藤も呆れているようだ。  天然ボケ二人は顔を合わせる。 「あれえ?前、先生家庭科室の机って火災や爆発のときに対応してるって言ってなかったっけえ?」 「ええ、俺も聞きました。そしてそれは証明されたわけですよ。たった今ね」  そう家庭科室の奥、バリケードのように積まれたシンクに棚、下手したらこっちのが雪崩れそうなその山を見て俺達は更に絶句する。 「あのシンクを……一体どうやって……!」 「ん、まあルイと頑張って、ね」 「ね」 「おい、周子、こいつらに突っ込むだけ無駄だ」  中学の時からだ。周りよりも浮いた二人は度々なにかやらかしていた。  そして、そんな二人に巻き込まれることも多々あったわけだ。  そんな二人を周子は俺と同じように敵対視していたが、やはり改めて一緒になってみるとこいつらと同レベル扱いされるのは納得がいかない。 「ってかさ、なんなの、これ?ここって並中だよねえ?なんでここにいるわけ?」 「噂では二年前にはここは閉鎖されたと聞いていたんですが」 「ええと、話したら長くなるんだけど……」  というわけで、二人に先程の俺と同じように状況を説明する周子。  頼れる委員長様々も御苦労なことだ。 「……というわけなんだ」 「なるほど、つまり俺達は閉じ込められて早く食糧か出口を見つけ出さないと最悪死ぬ可能性がある、と」 「ご丁寧なまとめありがとう」  驚くほど飲み込みが悪い二人にかなり噛み砕いて状況説明すること数十分。  理解したという二人も対して驚いた様子はなくて。  木賀島については、「皆と会えて嬉しいなぁー」なんてさっきからヘラヘラしてる始末だ。本当にわかってんのかこいつは。 「でも、まあ、良かったよ。二人とも無事で」 「ええ、腕一本くらいは覚悟していたのですがご覧の通りピンピンしてます」 「ってことはー枚田が死んでー陽太が瀕死ってんのー?」 「ちょっと、木賀島君……」  ヘラヘラと笑う木賀島に、不快そうに周子は眉を寄せた。 「んーだって本当のことだよね?委員長ってばピリピリしすぎー」  ああ、そういえば木賀島は前からこういうやつだった。  人の神経を逆撫でするのが好きなタイプ。それも、悪意なく。 「とにかく、旭陽太とここにいるメンバーをまとめたら丁度六人ということになりますね」  一発触発な空気の中、冷静な篠山の声が響いた。 「二手に別れましょうか」 「二手?」 「ええ、三人三人で二手に。ここで愚図っていても空腹は進行するばかりですしね。それに、気が立ってるのも空腹が原因である可能性もあります」 「なので、食糧を探しましょう」と、篠山は再度提案した。  それに食いついたのは、こういう会議じみたことが大好きな周子だ。 「でも、誰か一人は旭君についておいた方が良いんじゃないのか?目を覚ました時誰もいなかったら混乱してしまう。それに、怪我の具合が心配だ」 「なら、俺が旭陽太の面倒を見ましょう」  間髪入れずの返事だった。だからこそ余計、驚く。 「面倒って、お前……見れんのかよ」 「ええ、ある程度の応急措置は心得てます。少しは役に立つはずでしょう」  確かに、篠山はいつも学年で上位の成績を納めている。  それでも、と腑に落ちない俺に、向き直った篠山は自分の腹部に触れた。 「それに、高確率で俺が探索メンバーに加わっても役に立たないでしょうし」  そういって、制服の上着を捲って腹部を晒す篠山に俺達は息を飲む。  赤黒く変色した皮膚。 「先程の衝撃で少々やられてしまったようですね」と鬱血痕を撫でる篠山の無表情が僅かに引き攣る。  というわけで、一旦音楽室へと戻った俺達。  陽太と篠山は置いておいて、肝心は探索担当のグループ分けだ。 「それじゃ、僕と進藤君、右代君と木賀島君でいいよね」 「おい、ちょっと待てよ」  まともに話し合いもせず早速勝手に組を決める周子にすかさず突っ込んだ。 「なんで俺がこいつと組まなきゃいけねえんだよ。っていうか、ただ単に俺達と組みたくないだけだろお前!」 「否定はしないけど一応皆の性質を考慮したつもりだよ。進藤君と木賀島君が組んだら目も当てられないだろうし」 「なんでだよ!俺、大丈夫だぜ!」 「だからといって、なんで木賀島なんだよ!それなら俺が進藤と一緒でもいいだろ!」 「だって、君。木賀島君と仲良かっただろう」 「うん、俺、宰のことちょー好きだよ」  いいながら擦り寄ってくる木賀島を避け、「冗談じゃない!」と俺は声を上げた。 「こいつと二人きりは嫌だ、ぜってーやだ!」 「こんな状況下で我儘なんて通用しないよ」 「こいつと組むならてめえと組んだ方がましだ」 「残念ながら、それは却下」 「例えに決まってんだろ!バーカ!」 「二人とも、いい加減に大人になったらどうですか。進藤篤紀が泣いてますよ」 「うわーん、俺何も言ってないのにディスられてるー」  泣き真似する進藤まで加わり、更に悪化する音楽室の喧騒に、とうとう痺れを切らしたようだ。 「じゃあさ」と木賀島が口を開いた。 「ここは公平にじゃんけんしようよ。文句なしで勝った人から好きな相手選ぶんだよ」 「それなら能力も好き嫌いも関係ないでしょー?」と、へらりと笑う木賀島。  俺達の話を聞いていたのかその上でそんな提案をしてくるのか甚だ謎だが、このまま争ったところで腹が減るだけだ。  腑に落ちなかったが、もう文句を言わせないために俺達は木賀島の提案を飲むことにした。  というわけで、じゃんけんした結果。 「じゃ、二人とも頑張ってな!」 「待ち合わせ場所は音楽室。一周したら必ずここに戻ってくること。何か見つけた場合もここに戻ってきて、皆集まってから行動。勝手な真似は許さないからね」 「うるせえな、んなことわかってんだよ!」 「うんうん、俺達に任せてね??」  というわけで、じゃんけんの結果一人勝ちした木賀島に相方に選ばれてしまった俺は強制的に木賀島と組む羽目になってしまった。  そして、必然的に周子と進藤になるわけで、満足そうな周子の顔がただただ腹立たしかった。 「右代宰」  不意に、篠山に呼び止められる。 「旭陽太のことは気にしないで大丈夫です」 「別に気にしてねえよ」  それだけ答えれば、微かに篠山が笑ったような気がした。  こいつまじで表情乏しいからそれすら見間違いかと思ってしまいそうだが、確かに、笑った。と思う。 「んじゃ、宰レッツゴー!」  と、思えば今度はいきなり木賀島が肩を組んできた。 「おい、触るな!押すな!引っ張るな!」  そのまま引き摺られるようにして、俺達は音楽室を後にした。
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