闇の名残

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器械の音が、惺の耳を突く。 暫くして両親と凪は集中治療室の凪の病室にいた。 凪の担当医師が言う『器械に繋がれている』という言葉は想像以上のものだった。 身体に繋がれた器械。そして生きる為の点滴の数々。生きる為とはいえ、あまりの大掛かりっぷりに惺は少々引いてしまっていた。 これならばいっそ、そのまま死んだ方がマシではないかとさえ思ってしまうほどだった。 「本当に、巻き込まれたんだ……」 惺はただ呟いた。 母親はベッドサイドでほぼ泣き崩れた状態になっている。そして惺は呆然としたまま思考を巡らせていた。 そして、思わず歯軋りした。 「何で……お前は、いつもそうやって傷つくんだ」 ベッドサイドから少し離れた位置。それゆえか、(こと)(ほか)言葉が突いて出る。 ────あれは確か、惺が小学校高学年の時だった。初夏だっただろうか。 『きゃあっ!』 家に帰って来た時、母親から悲鳴が聞こえて来たのだ。 『ねぇ……俺って、そんなに弱い?……弱いの??』 惺がリビングに向かうと、凪には何故か右腕に大量の包帯が巻かれていた。 『何やってんの?』 『あっ……!せ、惺聞いて。凪が自分で腕を切ったって言うの。俺は弱くなんかないって言って……』 母親が惺を横抱きするように身体をくっつける。その表情は蒼白に近かった。 よく見ると、凪の腕の包帯は血で汚れていた。何で切ったのかが一目瞭然で、凪はその状態でも平気な顔をしている。しかし、何故か焦っているように見えた。 『弱いって言われたんだ……。その弱さを見せない為にこうやって切ったのに、それでもまだ分かってくれないの?』 悲痛な叫びにも聞こえる凪の声だったが、惺はただ呆れ、息を吐いた。 『バカ』 『⁉』 惺は睨みつけると、凪にそう投げかけた。 『自分で弱いって言っている時点で可笑しいこと気付いた方が良いよ。人に強いって言って貰わなきゃ、死ぬの?』 『お前に、何が……』 『変なことにお母さん巻き込まないでよ。そういうのは自分で片付けるの。『此処(ここ)』で』 そう、惺は凪の心臓を指で何度か突いたのだった。 まだ小学生だった惺が、自分なりに凪に掛けた言葉。 それもきっと凪には何ひとつ届かなかったのだろうと、今では思う。 ただ、そんなあまりに不完全過ぎる凪だったからこそ惺は感謝しなければいけなかった。
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