闇の名残

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「あいつは死んだようなものだけど、まぁ一応生きてるってワケだから……」 惺は凪の元に向かう。 呼吸器の音が、無機質に病室内を響かせている。 「生きろよ」 そう、凪に声を掛けた。 生きて欲しいのは、彼女の為でも、家族の為でもない。 自分の為だ。 心底嫌いな、兄・凪は自分が手に掛けるまで死んではいけないのだ。 名もなき犯罪者に兄を殺されるくらいなら、自らの手で恨み言を叫びながら何度も刺し殺した方が良いに決まっている。 いや、いっそ十字架で貼り付けにして燃やしても良い。 凪の苦しむ姿さえ見ることが出来れば、あの通り魔事件の犯人のようにこの世から消えても構わないのだ。 ──惺は、今回の出来事でより一層強く誓った。 いくらでも家族から断絶する機会はあった。それでも離れなかったのは、凪の為だった。 何気ない日常さえも狂わせてしまうことに気付いていない凪を、ただ苦しめたい。その一心だった。 「外出るね」 暫く凪を見つめていた惺はそう両親に告げ、病室を出、集中治療室を出た。 「……ははっ。ありがとうね、凪」 惺は立ち止ると(わら)い、集中治療室を振り返ると顔の前でピースサインを裏に向けた。
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