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また戯けた笑みが返ってくると思いきや、まどかの反応は予想と全く異なるものだった。
「そう、よね……」
「え?」
「学園での事考えたら、想像もしないわよね」
口元は笑っているのに発せられた声はどことなく悲しげで、目も伏し目がち。でも、それも一瞬の事。次の瞬間にはまた何事もなかったかのように笑っている。
「さーて、授業始めましょ! 今日は机上での物の受け渡しや名刺の交換、並べ方なんかのビジネスマナーよ!」
「蘭沢先輩?」
「まどか先輩でいいわよー! あ、まどか先生かしら? まどか姉さんとかも可愛い?」
「呼べませんって!」
明るく振る舞っているけれど、見間違いじゃない。
「その」
「もー、つれなーい! まあいいわ、授業始まるわよー? はい、これ今日からの教科書」
何か言おうとしても遮られて、それ以上聞く事はできなかった。
昔の印象とは異なって、まどかの教え方はとても丁寧だった。
「はい、そこ指気をつけて」
「そう。ならこの部屋だとどちらが上座かしら?」
「うん、完璧ね」
少しでも不自然な動作があれば指摘して、できるようになるまで何度でも教えてくれる。できなくても否定するような事は言わないし、寧ろ褒めてさえくれる。
それがSランク相手だからか気に入っていた後輩相手だからかはわからないけれど、他の講師は皆機械的。ここに来て初めて人間味ある授業を受けた気がした。
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