三、

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 思いもよらなかったんだろう。祖父は圧倒されたように僅かに身動ぎした。だけど、それでもすぐにまた口を開く。 「……あれは気の弱いところがあった。だから咲希には学園で試練も与えて精神的にも鍛えていたんだ」 「お姫様は後継者なんて望んでいないみたいですけど?」 「贅沢を覚えさせれば気も変わる」 「気が変わらないから困ったんですけどね」  今度は一樹だ。 「一樹! お前までっ何を考えている!」 「そもそもあなたが約束を破ったんでしょ。何が跡取りになったら願いを叶えてやるだ。咲希までの繋ぎかカモフラージュくらいにしか思っていなかったくせに」 「黙れっ! 子供は親の言う通りにすればいいんだ!」 「実際の子供は二人共離れていきましたけどね」 「うるさいっ!」  祖父がいくら怒鳴ろうと二人の冷めたい視線が変わる事はなかった。  二人は祖父を恨んでいる。跡取りになるために長い年月努力をさせられて、蓋を開けてみれば利用されただけ。秀樹は裏金や国の事も聞かされていなかった。 「あれはあの馬鹿娘が悪いんだ! 結婚相手を用意してやったというのに出ていきおって! 世間知らずが一般社会で生活できるわけないだろう!」 「あなたがそう言ったせいで僕は引き取られた」  一樹は勝手な都合で一人叔母の家に引き取られ。 「馬鹿娘が勝手に連れて行ったんだ!」 「引き留めもしなかったでしょ。双子を違う環境で育ててより優秀になった方を跡取りにしようとか考えて」 「跡取り候補は二人しかいなかったんだ、リスクは分散するべきだろう」 「結局死んだ長女に似た咲希を選びましたけどね」  祖父はずっと自分が正しいと叫び続けたまま。  もうめちゃくちゃだ。
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