三、

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「ねえ」  聞いていられなくて思わず出た言葉なのに、思ったよりもしっかりした声が出た。 「いい加減認めてよ、お祖父さんは間違ってたの」  尚人と心菜が驚いたようにこちらを見たのがわかったけれど、視線は祖父から外さない。壇上からは少し距離があるのに、浮き上がった青筋まではっきり見える。 「間違ってなどいない!」 「間違ってないなら何でここに母はいないの? 美由希さんはいないの?」 「黙れっ!」 「自分勝手に皆を傷つけて、それでも認めないから皆離れていったんでしょ」 「黙れと言っているんだ!」 「最初は美由希さんと母、そして今度は一樹と秀樹兄さんに学園の全生徒」 「黙れと言うのがわからないかっ!」 「黙らないよ、私は美由希さんじゃないから」  その瞬間、祖父は確かに目を見開いた。前に立つ一樹と秀樹まで目を丸くして振り返る。 「お祖父さんは私の事も見てないでしょ? ただ亡くなった美由希さんと似てるから、自分の間違いを認めたくないから、私を美由希さんの代わりにしようとしてるだけ」 「そんな事はないっ、ちゃんと成長を見た上で後継者を決めた!」 「嘘」  これだけははっきり言える。  クローゼットにかかった服は似たようなワンピースばかりだった。どれもこれも肖像画の美由希さんが着ているような、お嬢様らしいワンピース。  屋敷にいる間、許された数少ない自由が図書室だった。あの手紙や書き込みを見る限り、美由希さんも本が好きだったのだろう。  そして何より。 「本当なら私、二回ランク落ちしてたんでしょう? 冷静に後継者を選んでるならそのままにしてた。なのに私をSランクのままにしてたのは美由希さんに似てるから。実力とか素質じゃなく、ただ亡くなった長女に似てるから後継者にしようとしたんでしょっ⁉︎」  ーー本当に勝手だ。
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