三、

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 祖父は完全に押し黙った。尚人と心菜の視線が痛い程突き刺さる。でも、信じたくないのはこちらの方だ。 「学園で生徒がランクのためにどれだけ頑張ってるかわかる⁉︎ お祖父さんは私の努力も生徒皆の努力も踏みにじったの!」  悔しさで自然と拳を握り締めた。だけどその手はすぐに横から掬い取られて、爪痕がつかないように開かれる。  視線は祖父から逸らさない。だけどその手の感触に、ほんの少し気持ちが楽になった。 「私はお祖父さんの会社の跡取りにはならないよ」 「咲希っ!」 「皆と卒業して、将来は自分で決める。あの屋敷にも戻らないし、もしそれでも跡取りにしようとしてくるならもうお祖父さんと会わない」 「許さないぞ! お前は言う事を聞いていればいいんだ!」  ダメだ。さっきから堂々巡り。小さく息を吸い込んで、そして思い切り吐き出した。 「いい加減目を覚ましてよ! 私は美由希さんじゃない、美由希さんは亡くなったの!」 「なっ……」  怒鳴るように言うと、祖父だけじゃない。一樹や秀樹、尚人や心菜まで驚いたような顔をした。でもここで引き下がるわけにはいかない。 「いつまで過去に縛られてるの⁉︎ ついでに一樹と秀樹兄さんもそう!」  今日変わらなければ、きっと一生変わらない。そんな自信がある。 「美由希さんが亡くなって悲しいのも悔しいのもわかる! やり直したいのもわかる! 確かに母がした事もお祖父さんがした事も酷いよ! 自分勝手! でも恨んでも何も変わらない! 美由希さんは帰ってこないし、次の悲しい人を作るだけ!」  勝手な都合で一人は引き取られ、一人は残された。  私には一樹がいた。康介も由羅も玲央も可愛がってはくれた。でも、一樹にはそんな人いなかった。きっと寂しかったと思う。  そして、一人残された秀樹兄さんもたった一人で跡取りになるための教育を受けさせられたかと思えば、学園では競わされて。酷いと思う。勝手すぎると思う。  だけど不毛だ。 「いくら悔やんでも悲しくても辛くても恨んでも! それでもっ、時間は戻らないの! だったら前を見て!」  家族なのにこんなに傷つけ合って。  家族なのにずっと離れ離れで。 「今を生きてよ! おじいちゃん!」  このままでいい筈がない。力の限り叫んだ。
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