三、

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 会場は静寂に包まれた。誰もが何も言わず、身動き一つせず、ただ一人を見つめた。  会場中の視線を集める祖父は唇を噛み締めたまま動かない。先程までこちらを睨みつけていた目も今は伏せてしまって感情を読み取る事はできなかった。そんな時だ。 「総帥っ!」  張り詰めた雰囲気を破ったのは絶叫にも近い叫びだった。一人の黒いスーツ姿の男性が血相を変えて飛び込んでくる。 「何だ」 「大変です! 下に警察が! それに国税局も! お話を聞きたいと……」 「何っ⁉︎」 「ネデナ学園での生徒の監禁や暴行疑惑、それに裏金についても脱税の恐れありという事で……テレビで中継されているようで、それで……」 「どこのテレビ局が流しおったっ!」  怒りに満ちた咆哮が会場に響き渡った。その声は反射的に肩が跳ねる程で、心菜なんて怖かったのか尚人の腕を掴んでいる。  そして少しだけ残ったマスコミを見やれば、誰一人として祖父と目を合わせようとはしなかった。でもカメラだけは変わらず舞台上を向き続けている。それが答えだ。   「あ! お待ちくださいっ!」  そこに外から慌てたような声が響いた。何やら騒がしくなったかと思えば、すぐに扉が開いて何人ものスーツ姿の男女が入って来る。 「警察です。ご同行いただけますか」  印籠のように掲げられた手帳に、祖父は静かに目を閉じた。 「ああ」  このたった一言が出たのはゆうに数十秒後の事だった。
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