三、

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 対して秀樹と一樹の表情は浮かないもの。 「そんな簡単な話じゃないだろ。誰が後始末するんだ」 「残ったのはゴミみたいな株だけか」  二人はまるで自身の境遇を嘲笑うかのように吐き捨てた。  あれだけの裏金に、ネデナ学園の問題の数々。きっと色んな場所に捜査が入るし、祖父は無罪放免とはいかないだろう。  これだけのスキャンダルが報じられた会社がどうなるのか、きっと大変だという事しかわからない。二人のような跡取り教育は受けてない。  だけど放り出すわけにはいかない。ネデナ学園には生徒が、会社には働いている人とその家族がいる。 「そんな事言わないでよ。会社はもう二人にしか守れないんだから」 「何で俺が」 「おじいちゃんだって酷いと思うけど、二人だって跡取りになるために生徒に色々したの忘れてないからね。会社がまずくなったら知りませんなんて勝手すぎるよ」 「……はいはい、お姫様の仰せのままに」  色々には心当たりがある筈だ。咲希が唇を尖らせると、秀樹は降参とでもいうかのように両手を挙げてみせた。 「一樹もだよ」  一樹に視線を移すと、その表情にはまだ翳りが見えた。咲希にはそれが全てを諦めているように見えた。 「しっかりして、いい加減前に進んでよ。自慢のお兄ちゃんなんだから」 「咲希……」 「それに、お父さんにもなるんでしょ?」 「ああ……」  そうだね。呟いて一樹の口角がようやく少しだけ上がった。  これで本当に終わった。ようやく動き出す。 「行こう、姫達が待ってる」 「うん」  慧の手をしっかり握り返して、大きな扉に手をかけた。
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