三、

25/37
前へ
/218ページ
次へ
「話して何になる」 「咲希を遠ざけられただろう」 「……別に。俺が何と言おうがこいつにとってお前が一番上の兄貴で大事な奴だって事には変わらないだろ」  康介は素っ気なく言い切った。思いもよらない言葉に一樹の目が見開かれる。だけどそれも一瞬の事。 「……真実を聞いた日からお前達を弟だとか妹だと思った事は一度もない」  低い声で言い捨てた。  ーーどうしよう。  やっと兄弟全員が揃ったのに。やっとちゃんと兄弟らしくなれると思ったのに。  康介はわかっていたとでもいうかのように態度も表情も変えない。でも、玲央は眉を寄せているし、尚人はおろおろと一樹と康介を交互に見ている。心菜に至っては不貞腐れたように唇を尖らせた。 「いいんじゃない」  言ってのけたのは由羅だった。 「おい由羅!」 「何言ってるんだよ!」 「だってそうじゃん。妹だと思わなくていいよ、従兄弟なんだから」  思いもよらない正論に、尚人と玲央は押し黙る。 「確かに両親は最初は私、下が生まれたら尚人と心菜にべったりだった。一樹が構われてるところなんて見た事なかった。気づかなかった事は悪かったと思うし、一樹が私達を兄弟だと思いたくない気持ちはわかる」  卒業の日に聞いた由羅の想い。私達は一度聞いていたけれど、心菜は初めてだ。驚きと不安が混ざったような表情で上の姉を見つめた。  そしてもう一人。驚きを隠しきれないでいるのは一樹も同じ。 「でもさ、あんただって私達にやり返したでしょ? 私は寮を追い出されたし真瀬に利用されたし? そろそろ喧嘩両成敗って事にしようよ」  由羅を横目に見ながら、何も発さない。
/218ページ

最初のコメントを投稿しよう!

446人が本棚に入れています
本棚に追加