一、

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 授業は時間ピッタリに終わった。 「じゃあ来週はお茶会のマナーよ」  まどかはそう言って微笑むと、可愛らしく装飾された厚紙を差し出した。受け取って見るとドリンクのメニューだ。それもただのメニューじゃない。学園ではよく見た、ここに来てからは一度もお目にかかっていないそれは……。 「これ……アフタヌーンティー?」 「そう。アフタヌーンティーを一緒に楽しみましょ?」  季節のピーチアールグレイティーに桜ルイボスティー、ストロベリーティー。定番のブラックファスト、アールグレイ、ダージリン、アッサム、ウバ、ディンブラにニルギリ、キーマン。中には高級茶葉の名前もあるし、もちろん緑茶や珈琲の類も何種類もある。厚紙には何十種類ものドリンクの名前が並んでいた。 「流石にこれ全部は用意しておけないから、飲みたいものを十種類くらい挙げておいてちょうだい。前日まででいいわ」 「ちょっと待ってください! 次の授業がこれ?」 「そうよ? お茶会や食事の所作も淑女の嗜みでしょ?」  驚いて尋ねると、今度は学園にいた頃を彷彿とさせる笑顔が返ってくる。悪戯が成功したような無邪気さがあり、でも誰にも何も言わせない強さを兼ね備えたその表情は正しくSランクらしいもの。  その笑顔に余計に混乱した。 「あ、多少変更があるかもしれないけど、裏にフードメニューもあるから。アレルギーや苦手なものはないんでしょ?」 「ないですけど……」  だってよくしてもらう理由がない。この人が理由なくここまで人によくするなんて想像もつかない。  厚紙の裏面を見ると、これまた美味しそうな料理やデザートの名前が並んでいた。柚子先輩が見たら飛び上がって喜びそうなラインナップだ。本格的な三段トレイのアフタヌーンティーを用意してくれるらしい。 「何で……」  その問いかけには答えてくれなかった。 「時間切れ、次の授業も頑張ってね」  まどかはそれだけ言うとさっさと荷物をまとめて引き上げてしまう。そして最後に優しい言葉と綺麗な笑みを残していった。 「また来週ね」  
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