三、

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 由羅はそこに畳みかけた。 「私達の事は弟だとか妹だとは思わなくていいよ。でも、咲希だけは何をされたって諦めずにあんたを慕い続けてくれたんじゃないの? ちゃんと、咲希の兄貴ではいてやって」  一樹が最後に由羅と会った時からは考えられないだろう、語りかけるような話し方だ。一樹は由羅から視線を外し、そっと目を閉じた。 「……随分殊勝な事を言うようになったな」 「別に。今までこの子らに姉らしい事してあげてこなかったからね」  ーーそうだよ。一樹、由羅は小さな頃の優しくて頼れるお姉ちゃんに戻ってくれたんだよ。  心の中で語りかけながら一樹を見つめる。たっぷり十秒は待っただろうか。その瞼がゆっくり開いて、ここに来て初めて目が合った。  ーー今だ。 「一樹」 「……何だい?」  返ってきた声は優しくて柔らかかった。やっぱり一樹は私には特別優しい。どうしても、どうしたって、何をされたって、一樹は大好きなお兄ちゃんだ。  だからこそ、これだけは言わなければならない。 「やり直そう? 従兄弟として。兄妹として」  一樹が口を開くまで、またたっぷり十秒を要した。そして時間がかかった割に返ってきた言葉はたった四文字。 「……そうだね……」  でも、それだけでいい。長い間この四文字が足りなくて、随分遠回りしてしまった。  止まっていた家族の時間が動き出した瞬間だった。
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