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それからは嬉しい事の連続だった。
まずは皆で食事。一樹は帰ってしまったけれど、それでもまた皆で食事ができる時がくるなんて思いもしなかった。
「え? 玲央商社マンなの⁉︎」
「そ。頑張ったんだぞ? 心菜も大きくなったな!」
「すごーい! じゃあ美味しいご飯食べさせてもらおーっと! ね、いいでしょ⁉︎」
「心菜、あんたいい加減にしなよ」
「由羅には言ってないもん! お姉ちゃんと玲央に言ってるの!」
「自分に甘い人間選んでるだけでしょうが! 言っとくけど家に帰ってきたって私も住んでるんだから。甘やかさせないからね!」
「ひどーいっ! 自分だって散々好きにしてたくせに!」
心菜が甘えれば由羅が嗜め。
「まあ飯くらいはいくらでも連れてくよ。あ、高いもんはダメだからな!」
「嘘だろ⁉︎ いいの⁉︎」
「当たり前だろ! ってーか学園にいた時だって奢ったじゃんか。あ、尚人も卒業して働き出したら心菜と咲希には何か奢ってやれよ?」
「……うわあ、まじかー」
玲央がかっこいい事を言えば尚人が目を白黒させる。
ずっと思い描いてきた兄弟との食事に、半年以上ぶりの賑やかな食卓。頬が緩んで何度も手が止まりそうになったけれど、何とか姫が作ってくれた食事に舌鼓を打った。
「賑やかだな」
カレースプーン片手に、隣に座る慧が呟いた。驚きと呆れが混ざったような声だけど、否定じゃない事はわかってる。
「うん、賑やか」
「良かったな」
「うん」
頷いて、またこの光景を目に焼き付ける。
「そうよ。心菜も一年半で卒業なんだから将来の事も考えなね? 働くにしても進学するにしても一度くらい皆にご飯作ってよ」
「えー」
「えーってね。奢ってじゃなくて作ってって言ったのよ?」
「心菜作れないもーん。あ、お姉ちゃん! お姉ちゃん作って?」
「咲希に頼らない!」
由羅がいて、心菜がいる。
「そうだ、家に顔出すのか?」
「え、行って平気なのか?」
「……連絡はしとくが暫くはマスコミが張ってるだろ」
玲央がいて尚人がいて康介がいる。
「それかここにいらしていただく? あ、咲希。チキンも食べてね。柚子一推しの自信作なのよ?」
「はーい!」
姫は本当のお姉さんになってくれたし、一樹とも仲直りできた。そして。
「慧もどうかしら?」
「美味しいです。な?」
「うん!」
隣には常に慧がいる。
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