三、

34/37
前へ
/218ページ
次へ
「俺もさ、友達が待ってるから帰るよ」  きっとネデナ学園に入る前の尚人ならこんな事言わなかった。 「そうか」 「ああ」  ただそれだけ。たった一言ずつではあるけれど、康介と尚人の口元は僅かに緩む。 「心菜は?」  問題はこちらだ。 「え……」  心菜は助けを求めるようにこちらを見た。  だけど助け舟は出せない。これは心菜が決めなければいけない事だ。  何も言わない心菜に、今度は姫が問いかけた。 「ネデナ学園に戻るか、ご両親のところに戻るかどちらがいい?」  学園に戻ればまた元の生活だ。今回の事で改善はするだろうけど、ランク制度がなくならない限り低ランクの心菜の生活が劇的に良くなる事はない。対して、家に戻ればきっと両親は甘やかしてくれる。新しい服も好きな食事も、きっと二人が叶えてくれる。  すぐ上の姉を見て兄を見て。二人共何も応えてくれないとわかると、心菜は唇を尖らせた。 「……お姉ちゃん達と一緒に戻って、お姉ちゃん達が卒業する時に一緒に退学する」 「そんなもん罷り通るわけないだろ。どちらかに決めろ」 「……やだ」 「嫌でも決めろ」  康介の言葉が素っ気ないのはいつもの事。それはわかっているけれど、駄々を捏ねる心菜との応酬に怪しい雰囲気が漂いだす。 「嫌なものは嫌」 「考える時間ならやる」 「何で康介に命令されなきゃいけないの」 「なら誰の言う事なら聞くんだ」 「……お姉ちゃん」  その瞬間、広い庭の全ての視線が集まった。  心菜の目は相変わらず助けを求めている。でもそれは昔のような助けじゃない。  昔ならとっくに「どちらも絶対に嫌」とか、「ママに言うから」なんて言っていた筈。今欲しいのはきっと。
/218ページ

最初のコメントを投稿しよう!

446人が本棚に入れています
本棚に追加