三、

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「何で私達が卒業する時に一緒に退学したいの?」  静かに尋ねると、心菜はバツが悪そうに視線を逸らした。 「……だって、今Eランクだもん」  低ランクは予想していたけれど、それでも予想以上。それなら余計にも昔の心菜じゃあり得ない。 「なら何で一度学園に戻るの?」  もう一つ尋ねると、今度は唇を尖らせて黙り込む。 「本当はわかってるんでしょ? もう決まってるんだよね?」  それが答え。心菜が欲しいのは後押しだ。  心菜は不貞腐れたように口を開いた。 「……ずるい」 「何が」 「わかってるくせに。……一樹達の話聞いて、素直に帰れるわけないじゃん。ママ達は優しいけど私の事ほんとに考えてくれてるわけじゃないもん」  そうだね。思ったけれど、それは口には出さなかった。  確かに両親は尚人と心菜の事を特別可愛がっている。でも、それはただ甘やかすだけの愛だ。姫達が寮生に向けてくれる愛情とはまるで違う。 「帰ろっか」 「……うん」  返ってきた声は小さかったけれど、その頭は確かに縦に動いた。  せっかくの先端技術科流バーベキューなのに、すっかり静まり返ってしまった。 「よーし!」  場を盛り上げるように声を上げたのは健司先輩だ。 「全員帰るのが決まったところで、咲希と慧に頼みがあるんだ!」 「何ですか?」  整った容姿に、Sランクでも偉ぶらない優しい性格。一時は他寮の女子生徒に学年の王子様とまで言われていた健司先輩の久しぶりのキラースマイルだ。嬉しいような懐かしいよつな気持ちになって、自然と口元が緩んでしまう。
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