四、

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 予鈴と共に入ってきたのは、やはり秀樹ではなかった。 「おはようございます」  見た事のない男性だ。いじり気のない黒の短髪に、夏だというのにきっちり着た紺のスーツと縁のない眼鏡。絵に描いたような真面目で優しそうなお役所勤め。    男性は教壇に立つと軽く頭を下げた。 「今日からこのクラスを担当します鈴木です。他の学年は当面の間の臨時担任という形になりますが、8年生はこのまま3月まで私ともう一人が担任を続ける予定です。よろしくお願いします」  その言葉に、沈黙が続いていた教室が音を取り戻す。 「城之内先生じゃなくなるって事⁉︎」 「この学園に城之内グループが関わってるって噂本当だったんだ!」 「それより俺の内定はどうなるんだよ!」 「教師総取っ替えって事かよ⁉︎」 「やば……」 「今までの高ランク贔屓の先生達も皆いなくなるって事だろ? 良かったじゃん!」  至る所で悲鳴があがる。男子も女子も高ランクも低ランクも関係ない。皆そわそわあっちを向いてはこっちを振り返り、自分の想いや見解を話し合う。  鈴木先生は何も言わなかった。ただ困ったように生徒達を見下ろすだけ。だから騒ぎは本鈴が鳴ろうと収まる事はなかった。今までならAランク達が一喝していたところだけど、それもない。自分達の将来への不安ばかりだ。
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