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その日から咲希の扱いは劇的に変わった。
まず、自由が増えた。一日の授業時間も一コマ減って授業と授業の間には休み時間までできた。部屋には果物やおやつ、ドリンクが持ち込まれて好きに飲食できるし、図書館の本を読む事もできる。
何より扉のロックがかかっていない。授業中以外は部屋の外に出れる。当たり前の事なのにそんな事が一番大きい。
三ヶ月以上、週に二回の食事以外部屋から出れなかった。直接外の空気を吸う事もなかった。中庭に出て、太陽の光を浴びながら緑を見る。たったそれだけで随分心が楽になった。
だから。
ーー考えないと。
昼休みの中庭で、咲希は大きく息を吸い込んだ。
いつまでもこうしていられない。皆の所に戻りたい。きっと皆心配してる。そのためには冷静に考えないと。
ーー何で一樹は私に執着してるの?
ーー何を考えてるの?
ーー祖父の狙いは?
ーーどうしたらここから出れる?
ーー抜け出す事は可能?
ーーこの場所と現状を外に知らせるには?
考えないといけない事はだいぶ纏まった。だけどどれも糸口が見つからない。
今日もここまでか。もう一度、今度は大きく息を吐き出して屋敷の中に戻る。一歩足を踏み入れてふと視線を上げると、一枚の油絵が目に止まった。
この屋敷には高そうな物がたくさん飾られている。壺、平皿、彫刻、絵画、色々あるけれど、この絵は何かが違う。
描かれているのは自分と同じ年の頃の女性だ。綺麗なワンピースを着て椅子に腰掛け、小さく微笑む姿には大人しい名家の娘さんかな、なんて印象を受ける。問題はその背景。
緑が青青と茂る大木に、隣には白のアーチ。どう見ても今までいた中庭の光景だ。
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