四、

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 残った男の子は。 「……ありがとうございました」  ぶっきらぼうに言って教科書を拾い始める。手伝おうと一番近い教科書に手を伸ばしたけれど、それは届く寸前で引き抜かれた。 「大丈夫です!」  その顔には手を出される事への不満がありありと見えた。まるでいつかの誰かを彷彿とさせるようで、ここで無理にでも手を貸すのは逆効果だとわかる。  何も言わずに体を起こすと、男の子は素早く教科書を鞄に詰め込み。 「ありがとうございましたっ!」  叫ぶように告げて早足で去って行った。向かう先はやっぱり体育科だ。 「あれなら大丈夫そうだな」  その力強い足取りに慧は口角を上げた。 「え?」 「千種和臣。体育科のAランク。根性ありそうだ」 「知ってるの?」 「1年のプロフィール見た時に珍しい苗字だから覚えてたんだ」  確かに千種の後ろ姿はさっきの逃げて行った五人とはまるで違う。背筋はピンと伸び、足はしっかりと地面を踏みしめている。  ーー確かにあれなら負けなさそう。  でも、安心はできない。気持ちは博が代弁してくれた。 「まさか1年生までこんな事になってるなんてな」  そう。今までの学園に不満を持っていた上級生ならまだわかる。まさかこんなに早く1年生まで。 「急がないとだな」 「そうだね」  目の前で実際に起きるとまた違う。改めて決意を口にした。  さっきまでの楽しかった帰路が嘘のように、場は静まった。それを破るように大袈裟に笑ってみせたのは華だ。 「にしても最近の1年生は怖いよねー」 「え?」 「皆気が強くて怖そうだなーって。私達の時とは大違い!」  小さく舌を出して戯ける姿は確かに全然怖くない。でも。 「いや、華も結構怖かったからね⁉︎」 「咲希ひどーい! 私は舐めくさった奴以外にはそんなに怖くなかったって」  今の1年生達だって、昔の華には絶対勝てない。咲希が思わず吹き出すと、釣られるように皆の顔に笑みが戻った。  
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