五、変わりゆく日

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 案内されるのは変わらず一番奥の特別席だ。 「何にする?」 「ケーキセットにしようかな。慧は?」 「俺は飲み物だけでいい」 「ありがとうございます。でしたらこちらのスペシャルセットはいかがでしょうか。お二人分の飲み物とハーフサイズのデザート四種類をお選びいただけます」  店員は自然な動作でラミネート加工されたメニュー表を差し出してくれた。おしゃれなティーセットと共に嗜好を凝らしたデザートが幾種類も並ぶ写真は見るだけでも心が躍る。 「全部食べれるか?」 「んー、少し食べて」 「ん。じゃあそれでお願いします」 「かしこまりました。ではデザートのサンプルをお持ち致しますので少々お待ちください」 「お願いします」  煌びやかなメニュー表にS・Aランク専用の文字はない。そして。 「咲希先輩! 慧先輩! 何にしたんですか⁉︎」 「スペシャルペアセット!」 「ですよねー!」 「私達もそれにしました!」  ラウンジに先に来ていた寮生のほとんどが同じセットを楽しんでいる。  皆の笑顔には陰りなんてまるでない。  ラウンジはテーブル同士の程良い距離と高い吹き抜けの天井のおかげで広々して見えるけれど、そこまで大きいわけじゃない。だから。 「美味しーっ!」 「流石ジャイプルだよね! このマンゴー食べたかったー!」 「ねー! あ、後でジャイプル探検しよ!」  一番近くに座る3年生達の話し声も聞こえてくるし。 「そこは何食べてるのー⁉︎」 「ペアセット2つですー!」 「俺は付き合わされてます!」 「眞子、宏太は?」 「順達と買い物に行ってます!」  少し離れたテーブルの京子と佳那、哲平と眞子とも簡単に会話ができる。もう少し声を張り上げれば端の席でも届いてしまうだろう。 「咲希先輩! マンゴーのかき氷とパンナコッタお勧めです!」 「かき氷は慧先輩にも!」 「了解! ありがとう!」  皆いる。昨年置いて行ってしまった後輩達と今年先端技術科を選んでくれた1年生が誰一人欠ける事なくここジャイプルにいる。ラウンジでお茶をしたり買い物に行ったり探検したり。思い思いに心から夏休みを楽しんでいる。 「良かった……」  周りに広がる光景に自然と頬が緩んだ。
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