一、

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 部屋に帰って確認すると、持って出たのはどれも小説だった。ファンタジー、SF、恋愛、サスペンス、種類は色々、短編からシリーズ物まで仕様も様々。  下の方に目を凝らしながら捲っていくと、やっぱりあった。 『羨ましい』 『私も行きたい』 『いいな』 『逃げ出したい』  隠されていたのはどれもまた悲痛に満ちた言葉ばかり。  ーー誰がこんなの……。  考えながら四冊目の本を閉じようとしたところで、手が止まる。背表紙のカバーが折れていた。伸ばして付け直そうと、なんとはなしにカバーを取り外す。すると。 「え……?」  背表紙にはびっちりと文章が書き込まれていた。 『後継者なんてなりたくない。城之内とは関係ない世界で生きてみたい。自由に遊びに行って、お泊まりなんかもしてみたい。お父様に言えない自分が嫌い。こんなところにしか書けない自分が嫌い』  どんな気持ちでこれを書いたんだろう。綺麗な字だけど大きさや角度は少し乱れている。そしてここにあるという事は、他にもあるという事だ。  持ってきた全ての本のカバーを外していくと、そのほとんどに綴られていた。 『私もこんな恋愛してみたい。決められた婚約者なんて嫌』 『もう勉強なんてしたくない。普通の家の子はこんなに勉強してないよ。普通に大学に行きたい』 『息が詰まりそう! 家の皆もパーティーで会う人達も私が城之内の娘だから優しいだけ!』
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