五、変わりゆく日

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 微妙なスタートとなった目利き力競争。だけど反応は上々だった。参加している側も見ている側も、次の目利きが何なのか、どんな結果になるのか想像もできない。  本物の絵画と模造品とを比べる目利きではあまりの精巧さに歓声があがったし、高い珈琲豆をひいて淹れた珈琲を当てる目利きは四人中三人が間違えた。プロが作った和菓子を当てる目利きでは、もう一つを咲希が作ったものだから見た目で即答されてしまった。一流パティシエが高級カカオから作り出したチョコレートケーキを当てる目利きでは、観客席から「羨ましい!」「食べたい!」なんて悲鳴にも似た声がかけられた。  そして、参加者の知られていない特技が見えてくるのもこの競技のいいところだ。 〈一つ目の目利きはバイオリン演奏です! 今からお二人が弾いてくださるバイオリンのうち、高い方を当ててください〉  バイオリンの目利きは六レース目。目利きはコンピュータでランダムに振り分けたけれど、先端技術科からの参加は幸運にも歌だった。  一人目の素晴らしい演奏が終わり、二人目がワンフレーズ弾いたその瞬間。 「え、もう⁉︎」  歌は急いで立ち上がる。機械に答えが打ち込まれ、結果は『◯。』 〈先端技術科速い! 正解です!〉  宏太が叫ぶと、一瞬で沸き立った。 「さっすが歌!」 「にしても速すぎるだろ!」 「あいつすごいな!」  先端技術科だけじゃない。 「すごくない⁉︎ 全然わからないんだけど!」 「あれ誰⁉︎」 「同じクラスです! 藤峰歌さん、先端技術科のAランクなんですよ!」  他の寮からも声があがる。  次の目利きへと走る歌の頬は赤く染まっている。それだけでもこの競技を考えた意味があるように思えた。
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