五、変わりゆく日

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 二番手から五番手までは女子四人が続いた。わかっていた事ではあるけれどコウキが作ってくれたリードはすぐに縮まり、一人に抜かされ、また抜かされ。 「お願いしますっ!」  4年生の狭山竜斗が巻き返してはくれたけれど、慧にバトンが渡ったのは体育科の後、普通科とほぼ同時だった。 「いけっ!」 「頑張れっ!」  博と謙太が叫ぶと同時に、慧が本気で走り出す。普段ジスランの散歩には付き合ってもらっているけれど、体育の授業はプールに行ってしまうから大体別々。全力で走っている姿を見るのは久しぶりだ。  こんなに速かったっけ。思っている間にも慧はバトンを持ち替え、更にスピードを上げる。普通科の男子生徒も頑張っているけれど、慧の方が僅かに速い。直線部分では完全に揃っていたけれど、カーブに入ったところで慧が前に出る。  グラウンドの内側も走れている。  ーーいける。  きっと慧もそう思っている。再び直線部分に入ったところでまた速くなり、前を走る体育科との距離も少しずつ縮まった。 「慧っ!」  思わず胸の前で握った拳にも力が入る。そして。 「頼んだっ!」 「はいっ!」  慧は体育科まであと一歩というところで哲平にバトンを繋いだ。  体育科がアンカーに選んだのはよく知る生徒だった。6年生のAランク、1年の時からこのランクを維持していて、クリスマスパーティーなんかでも目にしてきた。そんな生徒が速くないわけがない。  だけど、哲平だって負けない。 「相手速っ」 「哲平先輩ーっ!」 「いけーっ!」  歓声を受け、今日一番の全力疾走を見せてくれている。  多分二人の速さは互角だ。それでも僅かな差が生まれたのは、勝ちたいという気持ちの大きさの差かもしれない。  直線部分に入って、二人の姿が完全に重なった。残りはもう十メートルもない。 「哲平っ!」 「行けっ」 「勝って!」  ゴールテープを切ったのは哲平だった。
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