五、変わりゆく日

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 大運動会は先端技術科の優勝で終わった。 「あー! 楽しかった!」 「ねー! 今日はお祝いですね、って明日か!」 「え、何で⁉︎」 「博先輩の初デートじゃないですか!」 「たしかに!」 「祝勝会は明日っすね!」  勿論先端技術科の皆は喜んでくれたけれど、それだけじゃない。 「あーっ! あとちょっとだったのに!」 「惜しかったよな!」 「ねー! でもいい勝負だった!」 「ね、明日残念会でどっか行かない⁉︎」 「いいね! あ、あの子も誘っていい⁉︎」 「俺らもやろうぜ!」  他の寮の生徒も皆、悔しそうではあるけれど笑っている。  ーー良かった。  その光景を見回しながら撤退作業を見守っていると、両肩に衝撃が走った。 「さーきっ!」 「びっくりした!」  華が後ろから覗き込むように顔を出す。 「運動会大成功して良かったなーとか思ってたでしょ! 一人で笑ってたよ!」 「せーかい!」  華の言い方に思わず笑って、同時に気づいた。その顔はまるで興奮を隠し切れないみたいに紅潮している。これはこんな事を言いに来たんじゃない。 「で、本題は?」 「お願いっ! これから部屋来て! 服とメイクとアクセ! 相談っ!」  博との食事デートの相談だ。華は赤い頬をそのままに、片手を顔の前に出してお願いのポーズまでしてくる。それが可愛くて、こちらまでにやけてきた。 「それは華の得意分野でしょー!」 「そうだけど違うのーっ! 男の人と二人で食事なんて何年ぶりだと思ってるの! あれ以来誰ともないからね⁉︎」 「大丈夫、華はいつものままで可愛いから!」 「それでも来てー! お願い、精神安定剤!」  普段の華は頼りになる姉御肌だと思う。自分の意思をしっかり持っているし、それを恐れず口に出して貫き通すだけの強さを持っている。  そんな華がここまで混乱して興奮して、駄々っ子みたいになるなんて。 「ぶっちゃけどうなの?」  聞いてはみたけれど、答えはもうわかってる。 「……あり寄りのありで」  ーーああ、明日の先端技術科でのお祝い事がまた一つ増えた。  行くの答えの代わりに華の肩を抱き返して、二人へのお祝いは何にしようかなんて考えを巡らせた。
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